清晨-セイシン-のマリス
□鐘の鳴る街
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一つの寂れた町に、風が通り抜ける。
砂と同化しつつある町に水気は感じられない。
昔は栄えていたというのに…いったいこの町に何が起こったのだろうか。
近くに落ちていた煉瓦の欠片を一つ手に取り、側にある井戸の中に放ってみたが、何も音がしなかった。
「底にだいぶ砂があるな。」
目深にかぶっていた厚手のフードをとり、ため息をつくようにぽつりと呟いた。
人気のない町に、影が5つ。
その中でも一番大きく、がたいの良い男は枯果てた町に疑問を持っていた。
「ここに、本当に『マリス』はいるのでしょうか。」
隣に立っていた小柄な男が、屈強な男・ユスハクの疑問を代弁した。
ユスハクは男の問いに背を向け、ゆっくりと歩き出す。
「あそこにいるさ。」
男はユスハクが目指す先に目線を合わせる。
窓には、砂が入らないよう、板が打ち付けられ、唯一の入り口だと思われる戸からは、くすんだ色の布が風に揺られて小さくなびいていた。
ユスハクの背中を目で追っていると、突然家の中から、小さな少年が出てきた。
目深にフードをかぶり、手には欠けたカップを持っている。
強い日の光に目を痛めないよう、カップを持っていない手で目をかばいながら、ゆっくりとこちらを向いた。
逃げられてはなるまいと、小柄な男は腰の短銃に手をかけた瞬間、少年の方から声をかけてきた。
「こんにちは…中で母が待っているので、どうぞ…」
14歳だと資料にはあったが、まだ声には幼さが残っている。
フードと手の影で、表情は読めないが、声に感情は感じられなかった。
「お前はどこに行くんだ?」
ユスハクは、威圧しないよう注意したのか、いつもに比べて優しい声をしている。
そう感じた小柄な部下は、銃にかけていた手を離し、構えていた足からも緊張を解いた。
「母が喉が乾いたと言うので、水を汲みに…すぐに戻ります。」
「そうか。」
そう返事をしたユスハクは、小柄な男に残りの3人を呼ぶよう指示を出し、家の中で待機するよう命じた。
その一方で、少年に着いて行く旨を伝え、何も返事をせず歩き出した少年の後に続いた。
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