籠国風土記
□籠の中
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籠の国の城下町にある大通りをまっすぐ行くとお城に、右に行くと光ヶ丘に、左に行くと隠れ里に着く。
お城は言わずもがな、籠の国の殿が住んでいて、多くの家臣がここで日々の業務をこなす。
城のすぐ側には重臣の家が建ち並び、何かあればすぐに出勤出来るようになっていた。
城を前に見て大通りから右側には、町人が多く住み、生活の場となっている。左側になると職人が多く住み、昼間になるとカンカンと気を打つ音や鉄を打つ音が鳴り響き、店も多い事から大変賑わう場所となる。
ただ、大通りから外れれば外れるほど、奇妙な空気が広がる一面も持つ。
と言うのも、その奥に籠の国の隠れ里が存在し、そこに至るまでに用心棒や武器屋、商人や町人を相手にしていないような酒場などが点在しているからだ。
「今向かっている所とは
反対になるから、
そんなに緊張しなくて
大丈夫だよ。」
樹の話を聞いて、向かっている場所も分からず、震え上がっていると樹が優しく声をかけてくれた。
「って事は、
光ヶ丘に向かっている所?」
「その通り」
『光ヶ丘』この言葉、ずっと前にどこかで聞いた事がある気がするけど、思い出せずにいた。
そんな考え事をしながら、手を引いてくれている樹の横顔を見上げてふと、昔を思い出した。
「たつ兄にそっくり。」
そう呟くと樹が少し嫌そうな顔をして私を見下ろした。
「やだよ。」
笑うようにそう言う。
そして「でも、そっか…」と懐かしそうに話を続けた。
「今の僕とえみりーは
そのくらい年が
離れているんだよね…」
たつ兄は樹の一つ上の兄で、面倒見のいい人だった。
ただ、ちょっとフェミニストで、男の子には厳しかったなぁ…
そんなたつ兄とも事故以来ほとんど会わなくなった。
樹とたつ兄はよくケンカをしていたけど、たつ兄が樹を可愛がっていたのは周知の事実だったから、きっと私一人残ったのがどこか許せなかったのかもしれない。
「会いたくない?」
私がそう問うと「うーん…」と煮え切らない言い方をして黙ってしまった。
ここに来て6年その間に樹に何があったのだろう…
すっかり大人びてしまった樹を見て少し寂しくなってしまった。
他のみんなは今どこで、何をしているのだろうか…
聞いてみたいけど、樹の変化を見ていると少し怖くなった。