籠国風土記
□争いの火種
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お団子を受け取り風呂敷に包んで持ち上げた樹は、急に追加でお団子を2本とお茶を頼んだ。
「ごめん!
用事を思い出したから、ここで少し待っててもらえる?」
「うん。」
返事をすると、樹は近くにあった椅子に腰掛けるよう促し、手に持っていたお団子を私のひざの上に乗せた。
「すぐに戻ってくるよ。」
そう言って、人ごみの中にゆっくりと消えていった。
あれから、数十分経ったが未だに樹は戻らない。
お団子も食べ終え、お茶も飲み干してしまって、暇をつぶす方法が底をつきかけていた時、人ごみの中に見覚えのある人物を見つけた。
でも、はじめに見たときより小奇麗な着物に身を包んで、脇には刀を携えている。
不思議に思ったが、これ以上は暇すぎて逆に辛い。
誰でもいいから相手をして欲しい!
「次郎!」
そう声をかけたが、振り向かない。
人違いだったのだろうか…
「次郎!次郎ってば!」
思わず立ち上がって声をかけるが、周りにいた人間が軽くこちらを見るだけで、当の本人はまったく振り向くことなく、人ごみに消えていった。
「こっち見てくれたっていいじゃない。」
かまってもらえなかった事と、人違いだったかもしれない事でつい口から愚痴がこぼれてしまった。
「何が?」
不意に背後から、声をかけられビックリしてしまう。
「遅かったね。」
そう振り返ると、樹がばつの悪そうな顔で「ごめん」と謝ってきた。
「用事は済んだから、帰ろうか。」
そういうと、立ち上がった勢いで胸に抱えていた団子を受け取り、再び手を差し出してきた。
「はぐれちゃうからね。」
出かける時と同じ理由で再び手をつないで、樹の家、呉服屋を営む赤池に向かった。