籠国風土記
□青き月の人
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───気がつくと、
強い光の中をただひたすらに歩いていた。
目的などない。
なぜここにいるのか、
なぜ歩いているのか、
それすらも分かっていないのだから。
ただ分かるのは、
自分を苦しめる責任と罪悪感。
そして、
来た道を引き返したくないという
強い意志。
ふと、気配がしてそちらに目をやると、
いっそう強い光が輝いた。
だが、不思議な事に、
眩しくて目を開けられないと言う事はない。
──やりなおしたいか?
光はそう問う。
やり直したくなどない。
どうせ同じ過ちを繰り返すだけだ。
どうせなら、
まったく違う人生を歩んでみたい。
──いいだろう。
光はよりいっそう大きく輝く。
──ただし、条件がある。
少しずつ、輝きを抑えていく光はまるで子供のようにあどけなく笑い、そして救いようのない悲しみを含んだ声を出す。
──さあ、お前の願いを叶える為の舞台は用意した。目を閉じて、開くだけでいけるだろう。
そう言われ、ゆっくりと目を閉じた。
──さっきも言ったように、用意した舞台はもろい。確固たるものにしたければ、私の望みを叶えてくれ。
その声とともに、辺りの光が薄れていくのが分かる。
──お前には特別に教えておいてやろう。あれが物に憑いている時は使い物にならん。人に憑いて初めて力を発するんだ。
お前や私の願いと一緒だ。
何かを得るために、何かを犠牲にしなければ何も成されないんだ。
その声を最後に、目の淵から光が入ってこなくなった。
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