月 夜 妖

□天狗屋敷
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深い山間の奥深くに、
人知れずひっそりと佇む
古い庵がある。

辺りを竹の柵で囲われた
小さな庵には、
一人の少女が住んでいた。

いつしか山には
北から下ってきた
天狗が住み着き、
庵は天狗たちの
たまり場のような存在にも
なっていた。

「弥山もか…これで5人。」
「なぜ、今頃になって
 奴が動くんじゃ?」
「分からん。」
「時期、山を下って
 柳谷まで降りるぞ。
 そうなれば、
 鬼どもがなんと言ってくるか。」
「…まさかとは思うが、
 鬼どもが関わっていまいな?」
「何のために?」
「最近、何かと
 騒動を起こしているじゃろう。
 人間から嫁をもらおうとしたり、
 例の河童の件も
 奴らの仕業のようじゃし。」
「奴らにそんな知恵が
 あるわけないだろう。」
「どうやら、
 何者かが奴らに知恵を
 与えているようじゃ。」
「もしや千晃の言っておった例の…」
「弥山は一人だったの?」

年寄りたちが口々に話していると、
突然上座に座っていた少女が、
口を開いた。

「いや、彦太坊と一緒だったが…」
「取りあえず、
 結界の範囲を広げるから、
 鬼を操っている
 “何か”の正体を探って。」

少女はゆっくりと立ち上がると、
締め切られた障子を開け、
廊下に出て行った。

「どこに行くんじゃ?」
「黒の所。
 今頃、那智や三郎が
 八つ当たりされて大変だもの。」

そう、ふふふと笑うと静かにその場を立ち去った。

「では高雄殿は鬼の方を、
 吉野殿は姫の警護、
 葛城殿と長門殿は
 この周辺の警護をしてくだされ。」
「愛宕殿はいかがされるのか?」
「私は千晃のいう事が
 真かどうか気になるので、
 そちらを調べます。」

「「では」」


そういうと、煙のごとく5つの影が消えてしまった。
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