清晨-セイシン-のマリス
□最果ての巨大都市
2ページ/4ページ
砂に囲まれ、次第に枯れていった街で暮らしていたフゥフィにとって、門をくぐったそこは異世界のようだった。
人があふれ、石造りの建物がどこか生き生きとそびえている。
広場の中央には大きな噴水があり、勢い良く水が流れ、その周りを楽しそうに人が囲っていた。
ふと踏み出した足元を見ると四角い石が細かくはめ込まれており、ゴトゴトとした音の方を見ると、牛車が何台か行き交っている。フゥフィにとっては、全てが目新しいものばかりだ。
「もっとしっかりフードをかぶれ。」
色々なものに目を奪われていると、頭上からユスハクの小さな声が落ちてきた。
ハッとして、両手でフードを深くかぶりなおすと、湧き上がる好奇心を隠す事ができず、僅かな隙間から再度辺りを見渡した。
宿を探しに出た部下を見送っていたユスハクに一人の紳士が近づいて来るのが見える。
それに気づいたフゥフィは、紳士が来る方向とは逆の方向にいた別の部下の後ろにこっそりと隠れた。
「やあ、ユスハク大佐。
こんな所で会うなんて奇遇だね。」
丸い風船のように膨らんだ紳士は優しくユスハクに声をかけた。
突然の事に、ユスハクが驚いて振り返っている。その光景が少し面白いと、フゥフィは思っていた。
だが、出来るだけ人に関わらない方がいいという事は今までの経験から自然と分かっていた。
そのため、隠れた部下の砂よけ用ローブを握り締め、出来るだけそのふくよかな紳士に見つからないように隠れていた。
「ダント判事…
なぜこんな所に?」
そうユスハクが、驚くのも無理はない。
このダント判事は、司法の元で2番目に権力を持っている超エリートだった。首都で出会うならわかるが、いくら4大都市の一つと言えど、首都から遠く離れたこの場所で会うことはほとんどない。
「長めの休暇が取れたから、旧友に会いに来たんだよ。君こそこんな所で部下なんか引き連れてどうしたんだい?」
「上司から直接頼まれた、内密な仕事なので申し訳ありませんが言えません…」
司法に関わる裁判官は、軍部がどのように仕事を割り振っているのか細かい所までは知らない。
つまり、ほぼ最高権威にいるダント判事とは言え、ユスハクの仕事までは分からないのだ。
「君の上司は、確かドロップ少将だったね…子供がいるって事は…」
そう言って、ダント判事はさっきからこそこそ隠れているフゥフィを見ていた。
嫌な予感がしたフゥフィの手に更に力が入る。
ローブを握り締められた部下は、表情を変える事はなかったが、フゥフィの手を握り、いつでも守れるよう少しずつ体勢を変えていった。