お話3
□坂田家オムニバス!!
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銀時が落とした男ー土方が、坂田姓になってずいぶんと経っていた。天人由来のモノというのはこれまた便利なもので、そのおかげでなんと二人の間に子供もできた。
そんな坂田家の、幸せいっぱいなお話。
*娘、母につく。
おはよーさん、と銀時が目をこすりながら寝室から出てきた。
まるで子供のようなしぐさに土方は朝からため息をもらす。どうして一家の大黒柱ともあろう男が昼過ぎに大あくびをしながらむくむくと起きてくるのだ。叩いても叩いても起きようとしない銀時に音を上げたのは自分なのだが。
「もう、寝坊なんだから」
父上、と鈴の鳴るような声を上げる四、五歳の女の子。
名を、琴、という。れっきとした銀時と土方の娘であった。容姿は土方に似たのか、黒髪に白い肌が映えている。目鼻立ちが整っていて、まさに将来有望、その分父親の心配は大きくなるのだけれど。
父親と母親が同性である家庭はまだまだ少ない。しかし、天人が理由なのか何なのか知らないが、そう珍しくはなくなってきたらしい。琴もまた、そんなイレギュラーな家庭を嫌がることなく、むしろ誇らしく、生きていた。
―わたしの父上はたくさん一緒に遊んでくれる、わたしの母上はみんなを守るヒーロー、二人ともすごく仲良しなの。
そんなことを言っていたと、いつか神楽から伝えられた。もちろん銀時はだらしなく鼻の下を伸ばし、土方は真っ赤になって否定するのである。
その神楽は、押し入れから新八の道場へと拠点をうつして、万事屋まで通っていた。
「まぁまぁお琴さん、許してくださいよ今日は俺もお母さんも休みなんだから」
娘の大人ぶった可愛らしい小言に銀時はあくびをしながら笑う。
「父上はいつも休みと同じだって母上が言ってたもん」
「あ、なんだそんなこと言いやがったのかお母さん」
「なにか訂正するところは」
「いや俺だって昨日…いや、うーん、ねぇな…」
「ほら俺の言った通りだろ」
娘とハイタッチをする土方は制服ではなく黒の着流し姿。そうか非番なのに寝坊した俺が悪かったか、と銀時は頭をがしがしと掻く。
「母上と一緒につくった朝ごはん、神楽ちゃんのお弁当になったんだから」
「はっえええ!?」
「残念だったな、ぐーたらしてんのが悪ィんだバカ、なー琴」
「ねー母上」
顔を見合わせてうなずく妻子が自分をのけものにしようとしている。どうして娘というものは母の味方をするのだ。お父さんとしては非常にさみしい。土方は"銀時の"嫁であって、琴は"銀時の"娘だというのに!
これはまずい、まずいぞ。銀時はなんとか仲間に入ろうと、笑顔をつくった。
「じゃっじゃあさ、夜!夜はみんなでつくろう!それで手を打とうぜ」
「もう夜の話かよ、先に朝ごはんだろ」
「あ?あれ、朝ごはんはもう食って残りは神楽で…」
土方は恥ずかしそうに目をそらした。琴がかわりに口を開く。
「母上、まだ食べてないよ、父上待ってたの」
「…そっか、お前は?」
「神楽ちゃんと食べた」
「うし、なら二人でお母さんを奢ってやろう」
「うし!」
「琴、おとーさんの口真似すんな」
土方は未だに銀時を「銀時」と呼ぶことも「お父さん」と呼ぶことも恥じらっている。そんな嫁がまた可愛い。
「ほら、先に玄関いってろ」
「はーい」
ばたばたと玄関に走っていく。ふと振り返って土方にニッと笑った。彼女なりに、土方の、銀時と二人になる時間を少しだけつくる、という作戦に参加できたと思っているのだろう、こういうところは、銀時に似ている。
「土方」
「なに」
「ごめんな、ありがとう、愛してる」
抱き寄せてつぶやくと、いっぺんに言わなくてもいいと土方がくすくす笑った。銀時の腕からするりと抜けた土方は、玄関で鼻歌を歌いながら大人しく待つ娘のもとへと向かう。
それを眩しそうに見つめた銀時もゆったりとその後につづいた。
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