お話3

□正義の好き嫌い
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狙うは真選組屯所。バーベキュー、とやらを。
真面目くさった顔で、神楽がテレビの前に仁王立ちになって言った。テレビが見えないと手をひらひらとふった銀時だが、神楽が動く様子はない。

屯所でバーベキューが開催されるらしい、と。あのいけすかない沖田がいるにもかかわらず屯所行きを決行しようとしているのだ、どこからどう知ったのかわからないが、相当バーベキューに魅了されている。
現に、口の端からだらだらとよだれを垂らしていて、銀時はため息をつくのだ。土方に言って、仲間に入れてもらうか。聞き入れてもらえるかわからないが。

「…あの、銀さん」
「あぁなりゃ何も聞かねぇ、連れていってやるしかねぇよ」
「銀さん、真選組からハガキが届いてるんですけど」
「…は?」

新八宛のハガキ―淡い水色の背景に金魚が描いてあるハガキに、残暑お見舞い申し上げます、と書いてあった。見覚えがある。この女みたいな可愛らしい字は、土方のだ。

『バーベキューに来ませんか。近藤さんからのお誘いです。近藤さんがうるさいので来てください。将来の弟と親好を深めたいそうです。是非とも真選組屯所にお越しください。
追伸
これを銀時さんに見せると後が面倒になりますので、お手数おかけしますが、読んだら捨ててください。土方』

来てくれ、とハガキに似合う丁寧な文体が必死に訴えている。近藤は相当手におえないらしい。裏には日時が書いてあった。

「…か、かっわいー…」
「捨てたらそれこそ銀さんが面倒でしょ、土方さんには悪いですけど、大人しく銀さんに渡しておきます」
「あぁ、これ捨てられてたら俺たぶん発狂する」

大事そうに懐にしまって、銀時はいまだ屯所に侵入する作戦を考えている神楽に出発を告げた。よだれが増えた。



「銀時さんだって、なぁ、銀時さんだってよ」
「ハイハイわかりましたから。ハガキに書くんだから、万事屋、とかぶっきらぼうなのはダメかなって思ったんじゃないですか、きちっとした人だし」
「それでも銀時さんだって、ホラ見ろよこれ、銀時さん」
「相手するだけ無駄ネ、新八」

屯所への道中ずっとこの調子だ。新八は汗でずり落ちた眼鏡を指で押し上げて、ため息をついた。
土方の言う面倒、とはこのことかもしれない。だが、あのまま捨てると発狂した銀時がどんな行動をとるかわからないので恐ろしい。これも我慢だ、と新八は自分に言い聞かせる。今に始まったことじゃない。

屯所へ行くと、さっそく煙があがっていて、宴が始まっていた。ようこそ、ようこそ、とぶんぶんと近藤に握手されて、新八は食糧確保のためにタッパーを開ける。少し離れたところで、銀時が土方に近づいているのが見えた。ひらひらとふっているのはあのハガキで、新八は土方から見えないように身体を隠した。
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