パラレル

□その十六
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傷のついた身体は、いわゆるワケアリ商品と同じで、あまり人気がなかった。彼らは斬り合いでついた傷のうえから新しい傷をつけることで、快楽を得ていた。

―顔に傷?困るなぁ、土方くんは綺麗な顔してるのに。

―痛いのかい?綺麗な背中なのにきたない傷痕だな。

―君はもっと自分の価値を知った方がいい。価値は高いんだよ、ただし、あくまで損傷ナシならね。

心臓がぎゅうっと掴まれたように痛かった。そんな痛みは、傷に爪を食い込ませて上書きをした。無理やりに傷の痛みにかえて気をまぎらわせた。

それしかやり方を知らなかった。




土方が顔に傷を負ってきたのはもう随分前のことだ。大したことはないと言っていたのに、あの整った無表情の顔にはいまだに白い絆創膏がでかでかと居すわっている。
沖田なんかは、何か隠していると言ってその絆創膏をひっぺがしたらしいが、ただ傷の治りが遅いだけで特に問題はなかったようだ。山崎は治癒力を落とす攘夷派の新しい兵器だとか言って心配していたが、それも土方に一蹴され。

「なあ、まだ治んねぇの」

結局、治るのはまだかまだかとしつこく聞いているのは俺だけだった。

「知るか」
「まぁちょっと見せてみろよ」
「いやだ」

土方は頑なに拒んだ。今は昼食が終わってすぐの時間帯、副長室で一服をしているから、機嫌もいいのではないかと思って聞いてみたけれど、今日もだめだった。
一体どんな斬られ方をしたのだろうか、見せたくないというのは、プライドにさわるからか?

「なんでだよ」
「綺麗じゃねぇから」
「はあ?」
「万事屋の言う綺麗とは程遠いので」
「…なんのこと言ってんだ?」
「…俺は綺麗じゃねぇ」

そうつぶやいて、土方は副長室を去った。

綺麗という言葉に、土方は引っ掛かっているみたいだ。「万事屋の言う綺麗」というのは、いつか俺が土方に綺麗と言ったことだろう。意識していなかったから、覚えていないけれど。
でも、綺麗なのだから仕方ない。あんな風に笑うなんて。

「旦那、じゃないや、坂田副長」

ちょっと話があるんですけど、と副長室に忍び足でやって来たのは山崎だ。

「副長の傷のことなんです、もう随分経ちますけど、まだ絆創膏貼ってる」
「あぁ、俺も聞いてみたけどダメだった」
「それがね、昨夜書類を持って副長室を覗いたときに、副長、泣きそうな顔で」

頬に、爪を立ててたんです。

「…それで、治りが遅いって言いたいわけか?」
「…言い切れないですが」
「自傷趣味があるとは思えねぇけど」

山崎は黙った。俺も、それ以上なにも思い浮かばなかった。ただ、土方の傷には、俺の言った"綺麗"が、少なからず関係しているように思えた。
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