パラレル

□その二
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斬れ、と土方は恐ろしいほど綺麗な顔で言った。もちろん腹の話。血の通っていないような白い顔で、眉間のシワはとれて、全くの無表情で。隊士さんは土方とは逆の意味で真っ白になっていたけれど。
場所は屯所の片隅、真夜中。

土方があの地味監察に呼ばれた時に、こういうことが起こるというのは予想していた。土方は何で山崎が俺のいる場所で呼ばれたのか不審に思うかもしれないけど、実は何週間か前に俺が見てしまったのだ。
この場所、本当に人目につかない所。山崎が土方に何か話していたのだ。仕事の話にしては場所がおかしいから、しばらく様子を見ていたのだが。
不意に山崎と目が合った瞬間、アイツの顔が面白いほどに引き攣った。それで、あぁ後ろめたいことしてるんだとわかったのだ。

隊士の粛正?本当、副長さんって暇な奴。

「で、でも副長っ!幼なじみが…借金取りに追われていてっ―」

どうやら問題の隊士は女を護るために人を殺したらしい。私情で殺生をするな…みたいな、きっと局中法度に引っかかるんだろうけど。おバカな隊士だよ。

「売り飛ばされそうになってたんです!脅されて…」
「いいから黙れ」
「副長…!」
「よかったじゃねぇか借金取りのオッサンじゃなくて俺が介錯してやんだから」

こんな現場、来ない方がよかったかもしれない。俺、お人よしだから、万事屋の血が騒ぐというか。
アレ、この隊士さんもお人よし?お揃いはちょっと遠慮したいけれども。

「土方君よォ」
「っなに…」
「もういいんじゃねぇの?こんな具合でホイホイ粛正してたら隊士さん全滅すんだろ」
「お前はっ―」
「こいつも反省してるみてぇだし、別に許してやってもいいんじゃねぇ?」
「馬鹿ッ!んなこと出来るか!」
「でもさァ」

土方だって色々疲れんじゃん。
これって、人殺しとかと変わらなくないか。だったら何で土方がその役を担うの。疲れるのに。
そう言ったら視線をそらして黙った。言い返せない土方を放って、隊士に帰っていいと言ったら泣いて謝る。
こんなに悔いているなら何も問題ないでしょう?いちいち殺さなくっても解決策はあるんだよ。そのために俺が副長さんになったと思えば少し救われた気分になった。

「ゴリラには言ってんの?言えないんじゃねぇの」

土方は何も答えない。
言っていないのだろう、そりゃあしんどいよ。

「……最低」

万事屋の馬鹿、と土方は言い捨てて行った。表情は見えなかった。だからちょっと怖くなった。

「…旦那」
「あーなんか核心突いちゃった感じ?やっぱり粛正やらはしんどいよねぇ」
「何であんなこと言ったんですか」
「さぁ、無意識?」

ハァと山崎が溜息をつく。つきたいのはこっちだと言いたい。土方にあんな風に返されたもんだから。
元々土方のことは好きじゃない。土方だって俺のことはいけ好かない人間だと思っているだろう。それでも喧嘩くらいはしていたのだ。くだらないやり取りも。

何も言い返して来なかった。近藤さんはゴリラじゃねぇも何も。
…土方にとって相当嫌なこと言ってしまったとでも言うのか。

「…副長、大丈夫ですかね」
「あんなことだけで?」
「旦那、」

アンタが思ってる以上に副長は色々抱えてんすよ、だって。
知らねぇよ、んなの。謝れってか?それも坂田副長の仕事か。真撰組の連中って結構ヤワだったりするみたいだ。

仕方がない。最低なのは俺の方らしいので。
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