パラレル

□その三
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久しぶりに仕事らしい仕事、いやいやただ一日中見回りだとか交通整備だとか、いわゆる幕府のパシリとして働いた。
今まで新人(しかも俺副長だしねェ)を外に出したくないと言い張る土方に代わって、一日沖田を追いかけていたのだ。それまでは土方のパシリが俺のお仕事だったんだけど。いい加減書類整理も飽きたと言えば局長さんはご親切に土方を説得してくれる。副長さん、素直に聞いちゃって、まぁ可愛らしいこと。

ただ一様にパシリと言っても動く範囲がただ事でないので、文字通り心身ともに疲れきった訳だ。

「あー足疲れた…明日筋肉痛になるわコレ」

お前は馬鹿みたいに丈夫だろ、―今日は冷ややかな視線も独特のハスキィな声も返って来なかった。もう寝ているのか、でもいつも忙しい副長さんは夜遅くまで起きているはずだけど。

「オーイ土方君、銀さん疲れたから布団敷いて」

基本的に副長室は一部屋しかないので(もちろん土方副長殿のです)、俺が増えてからどうするかが問題だった。と言っても無駄に広い部屋には机がちょこんとあるだけ。もともと物欲のない土方だったので、最初は酷く殺風景な印象があった気がする。
結果的に二人で同じ部屋で寝ることになったのだけど。

「土方ァ?…って寝てんのかコラ」

土方は特に抵抗は無かったみたいで、ここの畳からそっちがお前の領域な、とやけに子供っぽい決断を下して一人納得したようだった。
今はきちんと彼の領域内で寝ている。律儀な奴。俺はその領域外ギリギリからちょっかいをかけるのだ。向こう側の畳に入らないようにして。ちなみに仕事用の机は領域に関係ない。
起きている時とはあまりに違うその幸せそうな顔に少しムカついて、足でツンツンと突いてやった。俺といる時は一度もそんな顔しないくせに。別に笑って欲しい訳ではないのだが。断じて。

「…っ、そうご…?」
「ちっげーよ馬鹿」

ごろんと仰向けになって、着流しが崩れた。けど…鬱血ですか、首のそれ。噛み跡ですか、白い肌によく映えてらして。

「…万事屋」
「ですけど…何、今日は暇だったわけ」
「何が」
「俺より先に寝てるとかありえないだろ。…あと、それ…いや言っていいのかなー…」

ここって「そういうこと」には寛大なのか。

「あぁ、さっき総悟か何かに」
「はぁ!?そんな『あぁ』で済ませられることか!?」
「うるさい大声だすな。別にアイツがお盛んなだけだし…色々溜まってんだろ、俺で解消されるなら言うことナシ」

唖然とする俺を、目を擦りながら土方がちらりと見る。何か、とでも言いたげな表情である。

「お前なァ…」
「総悟はいい奴だよ」
「なに…」
「途中で怖くなって逃げやがった。くくっあんなにデカイ面してたのにな、土方さんは俺には早かったとか言ってて」

結局何もされてねぇし、と楽しそうにくつくつ笑った。今まで見たこともなかった。
いいな、と思う。綺麗だなぁと。眉間のシワがとれただけで、固い表情が緩まっただけで、自慢げに沖田の話をするだけで、すごく人間らしく。鬼というよりは、ただの眠たい餓鬼みたいだ。

信頼、絆、仲間、いや家族か。少なくとも襲われかけたというのにこの落ち着きよう。まるで成長を大切に大切に愛おしむ親のように、土方はただ受け入れる。
たとえ受け身でも、彼がとてつもなくたくましい人間に見えた。

「残念だったな、落ち込んでなくて」
「…もっと怒るかと」
「怒る?ッハハ、総悟に怒ったところで仕方ねぇだろ、お年頃なんだから」

俺の心を読んだように、土方はニヤリと笑った。

「俺って結構寛大な奴だぜ?坂田さんもいかがですか」
「…っなん…!?」
「冗談、んな顔赤くすんな気持ち悪い」

顔、赤いだと…!?

「おっオイ!調子こいてんじゃねぇぞ土方!」
「ハイ右足が俺の領域に侵入、罰金千円。おやすみなさい」

ぽすんと枕に落っこちて、土方は目を閉じた。やっぱり律儀な奴。
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