パラレル

□その五
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武士道?くだんねぇな。

悪いが俺はそんな立派な「侍」じゃない。武士道もクソもなく刀を振り回すしか能のない、まさしく野蛮なお猿さん。こればかりは幕府にも同意せざるを得ない。実際近藤さんはゴリラなのだから。
背中の傷はなんとか、生憎俺の背中は汚い傷だらけだ。本当、刀を持つ資格はあるのだろうか。いや、なくったって握らなきゃいけないのだけれど。

士道に背くまじきことって、どういうことだろうか。敵前逃亡はどうして士道不覚悟なのだろうか。時々、思うのだ。それこそ切腹モノだろうけど。
侍に成り切れなかった俺達が、少しでも高尚なものに近づきたくって無理矢理作ったもの。多分局中法度はそれに近い。だから守らないといけない。
それが、幕府に対するささやかで出来る範囲内の抵抗だ。

「そうか?まァ土方は猿っていうより猫っぽいけど」
「お前が武士道だなんだ言うからだろ、てか猫って何だよ。野蛮な猫って何…会議前に抜けた話すんなバカ」

万事屋の質問の答えを真剣に考えた俺が馬鹿だった。大して中身のない話だったのかもしれない。

だが腐っても武士道、少なからず憧れる部分もある。自分なりのルールを作って、それに従って、なんて充実した人生だろうか。まさしく侍、男、皆が目指す者だ。
刀を持っているのなら、そこまでしたかった。幕府の狗じゃなくて、近藤さんと、総悟と、正義にのっとった警察をしたかった。まぁ、無理な話だけど。

「…いいかテメェら、相手は人数も多いし過激派で有名な奴らだ。心してかかれ」

言いながら、ご立派に散れたらいいなと思った。近藤さんのために自分の命を使えたらいいなと。要らないかもしれないけれど。

「異議あーり」
「お、何か提案か万事屋?」
「近藤さんっ」
「いいじゃねぇかトシ、同じ副長だろ?」

同じだけど、アイツは侍だ。俺とは違う、もっと貴い人。普段はアレだけど。
攘夷戦争時代の英雄?届きそうにない。野蛮な猫と一緒にしないで。

「心してかかれって別に心しなくてよくね?負けても生きてりゃいいじゃん。敵前逃亡したらいいじゃん。過激派なんだろ?怖いし勝てるかわかんないし。オイお前ら、危なくなったら逃げろよ、副長命令です」
「てっめぇ万事屋…!」
「何?どーせ侍でも何でもないんでしょうが、今更綺麗に生きてどうなんの土方君」

綺麗に生きたいから言っているのに!

「俺ァ中途半端に武士道かじって死なれんのが一番嫌なんだよ、わかる?」
「…そうだな、じゃあ今回の指揮は万事屋に任せるか」
「よっ坂田副長初出勤ですな、お任せ下さい」

侍だから、言えることだ。攘夷浪士を経験してきたから言えることだ。

悔しかった。

侍じゃないことは十分痛感している。どう足掻いたって俺達には無理だ。それでも目標を作ったっていいじゃないかと言えば、そのために命を無駄にするの?と言われるだろう。
結局、俺が勝てる相手じゃない。過激派浪士も万事屋も。
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