パラレル

□その六
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相変わらず息の合わないお二方は、くだらない―いや、中身は重大ではあるのだが、終わりの見えない言い争いを始めていた。一応命がかかっている話だし、土方さんがその手のことでは恐ろしいほどうるさいのは知っている。
事の原因は僕と神楽ちゃん、いや銀さんが一番か。

「ふざけんなそれでもテメェ副長かっ!」
バンッ!と机を叩く音がする。
副長室に入るのは、どんなに不屈の精神を持っていても無理なので、今は廊下で聞き耳を立てているという訳だ。もっとも、聞き耳なんて必要ないほど怒鳴り合っているみたいだけど。

「あァ?お宅の近藤さんに任命されちゃった由緒正しい副長さんなんですけど何かァ?」

何で土方さんがここまで怒り狂っているかというと、銀さんのある種の不注意を犯したからだ。と言うより、銀さんがまだ土方さんをちゃんと理解していないと言うべきか。
僕や神楽ちゃんの方がよっぽど土方さんをわかっている。副長が見習いにこんなこと言われてるなんて情けないけど、僕が自信を持ってそう言えるくらい、銀さんは土方さんの扱いが下手くそだ。

よく知らないけれど、先日銀さんが手柄をたてたらしい。それで、少しずつ仕事(多分人を斬るとかいう方の)を任されていた。そこまではよかった。あぁ銀さんも出世したんですね、でよかった。
…ただ、神楽ちゃんを編制に入れたのが問題だった。僕は別件で、じゃなくてただのお留守番―足手まといなのでいなかったのだが、銀さんは攘夷浪士との真っ正面からの戦闘に神楽ちゃんを連れて行ってしまった。

「いくらチャイナが強ェからってまだ餓鬼だろうが!」
「あーハイハイうちの神楽ちゃんはあの星海坊主さんの娘だからさァぶっちゃけそういうシーンも大丈夫なんだよねぇ」
「だからって!」

だからって、…あんな人が次々と死んでいくところに餓鬼を連れて行くのか、と土方さんは言いたいのだろう。地獄絵図、じゃないけれど、それに似たり寄ったりな場所。もし僕が行ってたら、多分一瞬で斬られているだろう。

「私、別に何も怖くなかったネ」

その神楽ちゃんは横で押し黙っていた。が、唐突に口を開くもんだから怖い。このピリピリした空気に神楽ちゃんの高い声はよく響く。

「しっ…!聞こえたらどうすんの…」
「…私が悪いアル。連れて行けっ銀ちゃんにお願いしたのがいけなかったネ。…ちょっとだけ、銀ちゃんみたいなことしてみたかったんだけどな」
「え、何て…?」
「私もちょっとくらい役に立ってみたかったヨ。雑用やっても失敗ばっかだし、でも戦うのなら私にだって出来るアル。…銀ちゃんは渋ってたネ、ほとんど無理矢理ついて行ったもんアル」

神楽ちゃんは強いから、だから連れて行ったのだと思っていた。別に僕はわざわざ死にに行くような真似はしたくないし、一人残されるのも嫌じゃない。それはいい。
確かに彼女は不器用だ。障子は破るわバケツはひっくり返すわ、何でも力ずくでやるからいけない。まぁそれは置いといて。

「だから万事屋っ!」
「ハイハイ銀さんが悪かったよごめんごめん」

銀さんがそれを土方さんに言おうとしないのは、プライドとかキャラクターの維持とか、そんなくだらないことが理由なんだろうか?
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