パラレル

□その七
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お前、と自分が指名されたのに目を疑った。

何でも幕府のお偉いさんの息子?がしばらく屯所にホームステイするらしい。この間顔を見たっけ、生憎記憶力はよくないので覚えはない。近藤あたりに任せればいいかと放っていたら、何と局長さんは京までついていくことになったのだと。
じゃあ護衛チームと居残りチームに分けないといけない。副長のご決断が必要だけど、俺に権力はない。先日土方に怒られたばかりだからだ。謹慎こそなかったものの(近藤様のおかげだ)、常に彼が横で目を光らせている。

「…俺は京行きですかィ?」
「総悟は近藤さん係。こっちは副長二人いたら大丈夫だろ、お前近藤さんの言うことしか聞かねぇし」
「いやちょっと待って、俺?」
「万事屋は近くに置いとかないと心配」
「副長、俺はどうしましょう?」
「山崎は総悟のストッパー係な」

すらすらと役割をつけていくが、誰も反論しなかった。多少沖田が土方とくっつけないことに拗ねていたが、後は満場一致だ。
土方の采配は無駄がない。彼の通りにすれば上手くいく、皆がもう知っていることなのだ。あぁ俺とは大違い。

「じゃ、解散」

今日の土方は幾分柔らかい表情をしていた。会議の時はたいてい眉間にしわを寄せて大量の煙草をふかしているのに、今はゆったりと白い息を吐いている。
…何かいいことでもあったのだろうか。

不意に、ちょっと来いと言われて副長室にもどった。いいことのおすそ分けか、いやコイツにそんな愛想があるとは思えない。
息子様がアレやコレや、寝る時は警備がなんたら、昼間はなんたら、百聞は一見にとかいうのだから後にして欲しい。一度見ただけで覚えられないのは確かだが。
おすそ分けしてほしかったのはこんな堅苦しいことじゃないのに、もしや土方は仕事がスムーズにいくと嬉しくなるのだろうか。なんて面倒な奴。

「…万事屋、聞いてんのか」
「えー?あぁうんわかったって」
「違うわかったとかじゃなくて」
「ハイハイちゃんとするからさ」
「…俺のことは好きですかって言ってんだけど坂田さん」
「…はい!?」

別にからかうような顔でもなく、素朴な疑問だった。

「…いっいや…」
「嫌いか、ならいい」
「…あぁそう…?ってオイ!?」

今まで向かい合って話をしていた訳だが、あろうことか土方はでろっと首に腕を回して引っ付いてきた。急にどうした!?

「なァ、俺のこと嫌いか?」
「ひっ土方君…!?」
「…今ならよォ」

抱かれてやってもよかったんだけど、と顔を近づける土方に言葉が出ない。

コイツ、こんなに色気ムンムンだったっけ…!?
思わず鼻から何かが出そうになったのを見て、土方は冷たく笑った。そしてさらに顔を近づける。鼻と鼻がくっつきそうな距離だ。

「嫌い?」
「ちょっちょっと待て土方!何か銀さんいやちょっとあのアレ何これ!?」

よし、と土方は頷いてすぐさま体を離した。何がよしなのだ、こちとら意味がわからずこんなに混乱しているというのに!

「…お前もそのクチかよ」
「…え?」
「どーも、いいリハーサルになりました」

総悟、と叫んで副長室を出て行った。
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