パラレル

□その八
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――吸って。
生きてる?あぁ、生きてる。
だって痛いから。昨日刺されたんだっけ、あのバカな息子野郎に。違う違う、万事屋に。違う違う、俺が。俺が殺した。血を拭かなきゃ、畳ひっくり返さなきゃ、赤をとらなきゃ、近藤さんが。近藤さんが?いや、俺が?殺されるのかも。俺はいいけど、近藤さんは護らないと、総悟も護らないと、血を拭かないと。

「土方君、吐かないと死ぬって」
「…はッ…え」
「ハイ吐いて。さあ一緒にフゥー」

吐いて。やっと息が出来た。生きるための行為。起き上がろうと思ったら、意外に力が入らず万事屋の手を借りることになった。朝も朝、近藤さん達はまだ帰らないけれど、そっちの方が都合がいい。

「大丈夫?」
「…なにが」
「いやさァ、…いろいろ大変だっただろ、昨日」
「…うん」
「まぁ生きててなりよりですねぇ」
「死んでた方がよかったかもな」

あながち冗談でないかもしれない。幕臣が死んだのは、俺がいたから。初めて会った時にでも俺を殺しておけばよかったのに、気の毒なことだ。後始末まで、俺にやってもらえなかったのだし。万事屋、ご苦労様とご愁傷様。

どうせなら、優しく包まれて眠りにつけたらいいのに、そう思ってしまう。人を斬った後なのに、我ながら気味が悪いほど穏やかだ。あの息子だって俺を抱きながら死んだのだから、少しくらいは成仏出来るだろうか。親の方は知らないけれど。
いくら理想の死を描いても、きっと最期に見るのは、俺を殺して満足げに笑う敵なのだろう。笑顔に見送られるなら結構だ。

「…なんでさァ」
「…なに」
「そう後悔すんの、別にアイツが死んでも悪いことないだろ。土方は全力で生きてんの、それでいいじゃん」

あぁ俺は全力で生きてるよ、間違いなく。
自分でも呆れるくらい、貪欲に命を繋いでいる。早く手放せばいいのに、俺の体は死のうとしない。生きている。死ぬのは怖くないはずなのに、体の奥底では死を拒絶している。全く、愚かな体だ。

「…そうだな」

ふっと笑ったけれど、作られた笑顔は、やっぱり悲しみを呼んでくるものだった。


「副長っ!」
「ジミー?なんで、お前京にいるんじゃ」
「副長大変なんですっ!」

あんなに必死の山崎は見たことがなかった。多分攘夷浪士に追いかけられてもあんな顔しないだろう。一体何が。

「副長、すいませんお話が―」
「待て、俺も副長です」
「俺は副長に」
「土方は今全力で生きてるから邪魔しねぇの、いいから俺に話せ。じゃ土方、頑張って吸って吐けよ!」

一方的に話を進めて、万事屋は山崎を引きずっていった。

吸って吐けよ。
――ちゃんと生きろってことだろうか。
こちとら生きる意味なんてわかんなくなってきてんのに。
アイツの後始末ってどうすればいいの、と万事屋が山崎に聞いた。きっと冷たく固まった息子様は隣の部屋にでもいるのだろう、それが酷く辛かった。
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