パラレル

□その九
1ページ/3ページ

いつまでたっても口を開かない銀さんに、僕も神楽ちゃんもウンザリとため息をついた。だんまりってアンタ、大人でしょうが。大人のくせして喧嘩、それも「酷いこと言っちゃった」だけでは何もわからないでしょう。
今回の喧嘩は、いつもとは違ってどこか深刻な雰囲気が漂っていた。銀さんの顔は赤く腫れていて、口内も切ってしまったらしい。土方に殴られた、とは言うものの文句の一つも無しに一人落ち込んでいた。文句も言えない傷なのか。

土方さんに何を言ったのかは知らないけれど、銀さんが殴られたのは神楽ちゃんと一緒に廊下の端っこで見ていた。とてもじゃないけど間に入れないような、ピリピリした空気だった。

「何言ったんですか銀さん」
「…あー…」
「言えないことアルか、最低ネ」
「…うん最低だよな」

あーあ、ダメージは相当らしい。
いやそれより、土方さんは大丈夫なのか。あの人、ポーカーフェイスは得意みたいだけど、銀さんがここまでになるくらいなんだから。向こうも向こうで落ち込んでいるのではないだろうか。

「…どうせニコ中がビッチだとかそういうこと言ったんだろ、銀ちゃんの失敗パターンはよく知ってるアル」
「それは言っちゃいけませんよ銀さん」
「…やっぱり?」
「図星かよ、情けない男ネ」

真撰組がどうなっているのかはよく知らない。土方さんがどう動いているのかも知らない。
でも、僕達の知らないところで、苦労しているのだろう。大人の事情――僕達に課せられた義務は、知らんぷりすることだ。これ以上土方さんの苦労を増やす訳にもいかない。知らないことで彼が助かるのなら、何も求めはしない。銀さんはきっと、その大人の事情とやらを刺激したのだろう。外から、容赦ない針で。

「…謝った方がいいんじゃないですか」
「…だよな」
「謝ってどうするネ?何で謝るアルか?」

前の銀ちゃんなら、何もせずにほったらかしにしていたはずじゃないか。

向こうが悪いだの、自分の言葉に傷つくくらいに弱かっただの、謝ることは無いに等しかったじゃないか。ましてや相手は仲の悪い土方、ざまあみろとでも言わないのか。何で、謝る?

「そりゃお前、俺がとんでもねぇこと」
「別に銀ちゃんは年中とんでもないこと口走ってるヨ」
「…人間的に悪いし」
「銀ちゃんがマトモな人間だとは思わないアル」

土方さんに、何か情がわいたんじゃないのか。
神楽ちゃんは、多分そう言いたいのだろう。僕だって、そう言いたい。少なくとも、真撰組に入隊してから、銀さんは変わった。土方さんに対する接し方も、銀さん自身の纏う空気も。
―土方さんが好きなんじゃないのか。銀さんを見ると、そう思わずにはいられない。前よりももっと強く、そう思う。

「…だって相手が土方だぜ?」

神楽ちゃんの言いたいことを読み取った銀さんが、苦しそうに口を開いた。

「マトモな人間じゃない奴がマトモな恋愛するアルか」
「そうですね、銀さんなら仕方ないですよ」
「まだアイツが好きとは言ってねぇだろ」
「早く認めろヨ。トロトロしやがって、うっとうしいアル」
「…土方君ねぇ、嫌いじゃねぇんだけど」

そんなに警戒しなくても大丈夫、僕達万事屋はいつだって銀さんの味方じゃないですか。恋する相手が誰でも、何も言いませんよ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ