パラレル

□その十
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ったく近藤さんは、と土方が笑っている。
最近どうもニコニコしているのは気のせいだろうか。いわゆる「貼付けたような笑顔」ではなくて、本当に嬉しそうだから何も言うことはないのだが。
自然な土方の笑顔というものも珍しい。近藤さん、はよく知っているのかもしれないけれど、俺は知らない。土方を笑わせることなんて出来ないのはよく知っている、それだけだ。所詮局長様には勝てやしない。例え、想いが繋がったとしても。

あれからは、何も発展していない。
好きだ、うん嫌いじゃない、そんなような会話をしてからは何もない。いつも通り。土方からの会話は少なく、俺からのちょっかいは少し多い。仕事上の会話はいっぱい、煙草の量もいっぱい。相変わらず煙たい副長室だ。
…土方君、お前、好きの意味わかってる?

「万事屋、見回りお前だぞ」
「土方、好き」
「うるさい後にして」

うるさいだって。お前の好きってそんなもん?

「土方も一緒に行こうぜー」
「なんで」
「えー…あ、この間お前痴漢だ何だ言ってただろ、捕まえたっけ」
「あァ」
「じゃあ防止ってことで。また再発するかもしれねぇだろ、副長二人で見回りしてたらいい有刺鉄線になるし」
「…いい言い訳だな」

さすが副長、鋭い。
でも土方は愛刀を掴んで部屋を出て行った。どうやら付き合ってくれるらしい。協調性は皆無だけれど、少し、心が温かくなった。

「そういやさァ、土方どうやって痴漢捕まえたんだ?アレお前とジミーで片付けちゃったんだろ」

隣を歩いていても、土方はまるで一人でいるように。ゆっくりになったり早足になったり、俺が右側にいるのに顔はずっと左を向いている。たまにふらっと路地裏に行ったと思えば、いつの間にか大通りに出ている。猫みたいな奴だ。

「しかも沖田君によればアッサリ捕まえたとか」
「…うん」
「土方聞いてんの?」
「…うん」
「うわっ!」
「…何だよ」

聞いていたのか、その割には肩がびくついていたけれど。

「今びっくりしてただろ」
「してない」
「人の話は聞こうか、せっかく二人で見回りしてるんだし」
「せっかくっていうか俺は注意深く周りを見てるんだが」

あぁ幸せだ、くだらない会話が心地好い。

「お前最近笑ってるよな、どうしたの」
「どう見たら笑ってる風に見えんだ」
「違う俺の前じゃなくて近藤の前」
「…別に、笑ってなんか」
「いいことあった?」
「…痴漢の話に戻るが」

土方の癖だ。都合が悪くなると話を変える。近藤の話は嫌らしい、俺に話したくないだけかもしれないが。

「…どうぞ。で、どうやってって話だったよな」
「丸腰で夜中にほっついてたら釣れた。そんだけ」
「…あぁそう」

釣った、の。
予想はしていた。土方のことだから。そして、そんなやり方でも釣れるということも、わかる。でもさァ。

「相変わらず酷ェ戦法だな。近藤は嫌がるんじゃねぇの」
「…お前、そういうこといっつも言う。嫌だ」

驚いた。今の発言は失敗したと思ったのに。土方は大抵この手の話をすると逃げる。それか怒るか泣く。それなのに、「嫌」とハッキリ言ってきた。

「…万事屋?」

辛い。嫌なことしか自分には言えなくて、もっと良いことも言いたいのに、結局責める口調になってしまう。それが辛くて、悲しい。無力感がどんどん沸いて来る。
確かに土方のやってることは褒められたものじゃない。でも、もっと他に言えることってあるんじゃないだろうか。

どうして辛いことほど、言葉に出来ないんだろう。
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