パラレル

□その十一
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いけない、と思ったときには遅かった。

「…正論だな」
「…なに」
「でもホントお前、ふざけんな」

泣きたくなってきた、と言う土方の目のふちは既に赤くて、やっぱり俺は胸がきゅっと痛くなるのだ。

局長室からふらりと出てきた土方を見た。昨晩は彼の姿はなくて、朝も副長室にはいなくて、今日は一度も会っていなかった。もう今は夜だ。
それで、その局長室から出てきた土方が。

「ふざけんな、こっちだって色々しょってんのに」

頬に大きな湿布と、首筋に絆創膏。
納得がいった。多分またお偉いさんと会ったのだと。いつもなら―いつもと言えるあたりがまた悲しいが、でも普段ならあんなに目に見える跡は残さないはずなのに。これみよがしとは言わないけれど、ちょっとやそっとの言い訳では済まないだろう。

どうして、と聞きたかっただけなのだ。そんな傷を残して平気なの、と。どうせ身体のあちこちにも傷があるんだから、俺が手当してやろうか、と言いたかった。
ふと土方の肩に触ったら勢いよく拳が飛んできたものだから、少し腹が立ってしまって。

「…失言ばっかだな、万事屋って。謝って反省したのかと思ったら、全然変わってないし。いい加減そういうこと言われたら俺が悲しくなるってことくらいわかんねぇの」

「そういうこと」を言ってしまった訳だ。土方君ってホントに学習しないよね、と、懲りたと思ったのに相変わらず足開くのに抵抗はないんだね、と。そんなようなことを言った。多少皮肉もこめて。こもり過ぎた結果がコレだ。傷跡の理由はまだ聞けていないけれど、でももう教えてはくれないだろう。
いけないとはわかっているのに、もう土方に嫌なことは言わないと決めたのに、何で上手くいかないのだろうか。

「…学習しないのお前だし…俺が悪いのはわかってるけど」
「ごめん土方、今のは俺の方が悪かった」

だから、そうやって全部受け止めないで欲しい。
俺にこんなこと言える資格はないけれど、聞き流してもらって良かった。ただのくだらない嫉妬のせいで出た言葉なのだ。好きがちゃんと土方に伝わらなくて苦しんでいる俺の醜い感情なのだ。本心じゃないって、そう言ったら信じてくれる?でも、言葉ってどうしたって消えてくれないから。

「…お前、学習しないくせに、何で急に」

なんで、やさしくなるの。
そう言って、土方が視線を逸らした。

「万事屋は怒るだろうなって思ってた。謝るなら怒鳴るなり殴るなりしてくれた方がいい。…じゃないと」
「罪悪感?」
「…罪な訳な」
「違っだからそう泣きそうになんなって」
「なってない」
「ハイハイわかったから」
「わかってない」

何もわかってねぇよ、万事屋は。
何が言いたいんだ。土方のことがわかっているつもりなんかない。だってお前が言わないんでしょう、何をわかれと。

「わかってねぇの。それで結構だけど、わかったような口利くのはやめろ」
「…わかってねぇって…」
「…俺は大丈夫だから、妬くなら妬け。そっちで喧嘩する方が楽。…俺がどっかのオッサンに抱かれるのは嫌?」
「…嫌だけど」
「そう、なら良かった」

良かった?俺が妬くと良いのか?
それって、ちゃんと俺のこと好きだってこと?
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