パラレル
□その十二
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浮気、という言葉が一瞬浮かんで、そんな自分に朝から吐き気がした。
おはようさん、と肩を叩かれた時、僅かに万事屋のとは違う匂いがした。この間、嫉妬だなんだ煩かったのに、今度は自分がお楽しみか。女の香水の匂い、そりゃアイツはモテるだろうから。規律で女遊びは禁止されていないから、構いやしないけれど。
確かに万事屋のことは嫌いじゃない。向こうも俺を好いているみたいだし、それは嫌じゃない。でも、やっぱり好きと恋人は違うようだ。好きだから他人と関係しない、という考えではないらしい。
少し、残念。
「…副長」
「あ?何か用か」
朝食を食べている時に山崎に声をかけられたが、持って来る話はイイものではないらしい。曇った顔、そんなにわかりやすい表情で、監察が務まるのだろうか。
「…坂田副長、匂いませんか」
「お前も鼻利くのかよ」
「…え、じゃあやっぱり」
「さぁ?朝方どっかで引っ掛けてきたんじゃねぇの」
「そんな、副長がいるのに?」
「…は?」
「…え、アンタら恋人同士じゃ…あの、新八君達から聞いたんですが…」
視線を感じて振り返ったら、チャイナ娘がニヤニヤして手を振っていた。眼鏡が慌てて止めに入るけれど、…皮肉か、十分伝わったからもう遅い。
好きだから、だったら付き合うのか?万事屋には好きだと言われたけれど、恋人になろうなんて一言も言ってはいなかった。言われたところで、恋人がどんなものなのかはよくわからないし、断っていたと思うけれど。所詮、アイツにとっての俺はそんなものだろう。確かに、バカみたいに官僚に脚広げる恋人はいらないか。
妬いている万事屋を見るのは、嫌じゃなかった。好きってこういうことか、そうわかった気になって、嬉しかった。俺も、少しはアイツに情が湧いたんじゃないかって。
でも似たようなことをするなら、だったら、俺のことは放ってくれればいいのに。
「おいニコ中、銀ちゃんが浮気したみたいヨ」
「ちょ、神楽ちゃん!?」
「お前がちゃんと銀ちゃんの相手しないからネ、銀ちゃん拗ねたんじゃねぇか」
「…知るかよ」
「…トシちゃん、ホントに銀ちゃんのこと好きアルか?」
急に真剣な顔になった餓鬼は、心配そうな表情で俺を覗き込んだ。朝っぱらからやめてほしい。
「私は銀ちゃんのこと大好きヨ、銀ちゃんが好きになったお前のことも大好きネ、…銀ちゃんは浮気なんて絶対しないアル、何かの間違いネ」
「ぼっ僕もそう思いますよ、銀さんアレでかなり一途ですから」
「…副長、悔しいですけど俺も旦那は」
「お前ら、慰めてんの?」
ふざけるな、慰めるだなんて。俺はそんな。
「朝から何座談会してんだコノヤロー銀さんも仲間入りさせろコノヤロー」
たかが違う匂いだけで、悲しいとか、ないはずだ。
そんな純粋じゃないだろう自分は。そんな綺麗じゃないだろう俺は。いつも他人と寝るのは俺だろうが。なのに、コイツがそんな匂いを纏っているだけで、何を贅沢な。
何で俺は、こんなに嫌な奴なんだろう。好きだと言われて図に乗った?お前だけだと言われた気になった?こちらから何もしなくても、離れていかないと高を括っていた?
自惚れ過ぎじゃないか。でも、好きだと言われて、嫉妬されて、酷いこと言われて、謝られて。
そんなの、初めてだったから。
…俺って、万事屋のこと、結構好きみたい。でも。
「…万事屋」
「ん?」
「お前って、…あ…いや、何でもない」
「はぁ?」
わざとらしく口を開けた顔に腹が立って、俺は食堂を出た。
お前って、俺の恋人?
そんなこと、俺が聞く資格はない。
副長さんお悩み編と平行で、お二人の恋話も上げていきたいと思います。銀さん、浮気じゃないですよっ!
多分これから更新が中々上手いこといかないかなと思いますので、一ページずつになりそうですが、お許し下さい┏○゛