お話3

□喰って喰って愛して
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大丈夫かと銀時がため息まじりに言うけれど、土方は箸をくわえたまま咀嚼している。しばらくして、何か言ったか、と銀時をちらりと見るだけだ。食べ物に夢中になるのは仕方ないかもしれないけれど、こっちは身体の心配をしてあげているんだから、と依然元気な土方を見てデザートに手を伸ばした。

デートはいかがですか、と勝手に万事屋に上がりこんだ土方が、やたらに悪戯っ子のような顔をして嬉しそうにしていたのは今日の昼。デートという単語に身を乗り出した銀時だが、紙切れを新八と神楽に見せだした土方に、二人きりでという願いは消えたことを知った。

「トシちゃん、これ何アルか?」
「とっつぁんにおねだりして貰った」
「これ…え、ホテルのバイキングって…割引券、ですか…?」
「タダ飯、一緒に行ってくんねぇ?」

目を輝かせて喜びに跳びはねる従業員を見て、土方は満足に笑った。タダ飯、食べ放題、その単語に弱いのは全人類共通である。

「え、土方くん何勝手に話進めてんの?俺はどうなんの、デートは?」
「あ、万事屋も来るか?この券四人までならタダにしてくれるらしいし」

ついてくるならそうすればいい、と偉そうに鼻で笑う土方はかなり憎たらしいものではあったが、彼に会うのは久しぶりなので大人しく下手に出る銀時であった。


「お前ホント大丈夫?そんな食って腹壊さねぇの」

銀時がちびちびとデザートを食べている間も、土方は頬をいっぱいに膨らませてご馳走を堪能していた。
テーブルにつくやいなや豪華な食材を見て飛びつきとんでもない量を食べ始めるのは年少組、いや特に神楽か。しかし、土方の食べっぷりもなかなかのものであった。

よく食べる。その細い身体によく入る。見ているだけでこちらが満腹になるほど、食べる。神楽はともかく土方の暴食なんて珍しい、と先程から銀時は向かいに座る彼をじっと見ているのだが、未だごちそうさまは言わない。

「土方ってそんな大食いじゃなかったよな」
「あってはいひんひお」
「ちゃんと食ってからしゃべろうね」
「…だって最近仕事であんま食えてなかったから」
「食い溜めってか」
「腹減ってた、あとこれうまいし」

エビマヨがお気に召したのか、膨らんだ頬のまま笑う。タダ券一つでここまで幸せそうに笑ってくれるなら多少の暴食も仕方ないか、と銀時も笑った。単純に「うまい」と言う土方の笑顔は子供のようで可愛い。ホテルのご馳走が美味しいのか、マヨネーズなのか、いずれにせよ土方が満足そうなら銀時はどうだっていい。

「あー食った食った、ごちそーさん」
「デザートは?ホラあそこ、新八と神楽がいるとこ、チョコの噴水みたいなやつやらなくていいのか」
「お前行かなくていいのかよ、初めてなんじゃねぇの」
「貧乏人扱いですか!初めてですけど何か!もう五周くらいしましたけど何か!」

やっぱり初めてなんだ、と頬杖をついた土方がくつくつと笑った。上目遣いに見られると少しどきっとしてしまう。まだまだ土方の色気には勝てない。

「なに、土方俺に黙って経験してたのかチョコ噴水」
「とっつぁんに連れてきてもらったときにな。あん時はとっつぁんがいたから煙草吸えたんだけどなー」
「全席禁煙で残念だな、食後の一服ってやつは格別なんじゃないですか」
「べつに食えてなくても煙草はうまいけどな」

不摂生な男だ。きっと原因は仕事なのだろう。でも銀時は、仕事を辞めろとも食事はちゃんととれとも言えないのだ。そこまで彼に干渉することはできない。口出しできるような人間ではないのだ、副長様は。
土方がどんどん不健康になっていっても、自分は何もしてやれない。仕方ないことだけど、そんなもどかしさが銀時はあまり好きではなかった。

「そんなんで長生きできんのかよ」
「俺に聞くのかよ、無理に決まってんだろ」
「ひでぇなァ、銀さん置いていっちまうんだ。未練たらたらで成仏できねぇだろ」
「近藤さんさえ無事なら何の心残りもなく死ねるな」
「俺なら多分、宇宙一でかいパフェ食ってからにすりゃよかったとか、土方抱いてからにすりゃよかったとか」
「欲望まみれなら地獄行きだな」

およそホテルに似つかわしくない会話に、銀時は笑ってしまった。こんな言い合いができるうちは、まだ大丈夫だ。

「あーでも攘夷派捕まえてからじゃねぇと死ねないかも。そだな、お腹いっぱいだし、あと煙草と高杉の死体があったらぽっくりいけるわ」
「俺はどうなんだよ、この浮気者」
「お前?」

ぽかんと目を丸くした土方の前に、突然大きな皿が置かれた。

「銀ちゃん見ろヨ!これ全部チョコじゃないネ、マシュマロにチョコが噴水のやつがチョコで」
「あーわかったわかった食うならさっさと食え」
「アレ、銀さん甘味はもういいんですか」
「俺土方くんとしゃべってんの、堪能してんの、できたらそのままチョコん中に入れて食ってやりてぇけど」

そろそろ鉄拳でも飛んでくるかな、と横目で土方を見るが、窓から外を眺めていて銀時の発言には何も返さない。
いつもそうだ。銀時が新八や神楽と話しているときはあまり口を出さない。端っこで大人しくしているだけだ。未だに「よそ者」だと思っているのだろうか、もう家族みたいなものだというのに。

「トシちゃん、これ私がガキ共から奪ってきたプリン、あげるヨ」
「ありがと」
「ここの名物らしいですよそれ、まぁ僕らには違いなんてよくわかんないんですけど」

それでも、タダ飯に誘ったのは土方だ。
それだけでいい、少しは近づいてくれたかなと銀時は思うのだ。あとは自分が引っ張り込んでやればいい。土方を巻き込んで四人で話せばいい。真撰組の絆には敵わないけれど、それくらいは自分にもできる。万事屋を第二の家にすればいいのだ。

土方が幸せになるためには、と銀時は時々真剣に考える。どこまで真撰組に頭を突っ込んでいいのか。非番の度に土方をバイクに乗せてもいいのだろうか。土方の居場所はもちろん真撰組だろうけれど、でも俺だって。

「あー久しぶりに豪華な食事でしたね」
「銀ちゃん、私酢昆布以外の楽しみを知ってしまったアル、もう戻れないヨ」
「じゃあ死ぬ気でタダ券探すか」
「トシちゃんまたあの親父に色仕掛けで券もらってくれヨ」
「りょーかい」
「神楽!土方に変な入れ知恵すんな!」

ここまで恋人思いの彼氏もなかなかいないんだぞ、と少し胸を張ってみたくもなるのだ。

「おー!でっかいクリスマスツリー!」
「あ、あそこでなんか配ってるのかな」

店から出ると、派手なツリーの下でホテルマンがプレゼントらしき物を配っている。走っていく二人を見ていると、隣にいた土方がとんと肩を触れさせてくる。

「ん?」
「とっつぁんまた券くれるかな」
「コラ」
「じゃあ高杉の死体降ってこないかな」
「なに、もう死んでも悔いはないって?」
「あーじゃあ明日のシフトだけ組ませろ、確か総悟と組むのが俺だから、近藤さんにしねぇと。あっあと山崎からラケット奪って原田からペドロさんのチケットもらって」
「だから、こんなに尽くす彼氏さんには何の未練もなしなんですか」
「だからさっきから意味わかんないって、お前からこれ以上なにもらえってんだ」

もう十分もらってる、未練なんかない。
当たり前のようにそう言ってのけた。
なにを?愛を?土方を覗き込むと、照れるように目を逸らす。

「だ…から、その、今ので十分だから、なんの心残りもねぇって言ってんの」
「今のってなに、今の俺で十分ってことか、ちゃんと愛されてますってか」
「あーハイハイそうですそういうことです」

ああよかった、と銀時はホッと息をついた。恋人思いの彼氏にも、報われる日はくるらしい。ちゃんと受け取めてくれていた土方も、やはり恋人思いのイイ奴だ。

「なんだ、思ったより俺のこと好きなのなお前」
「はあ?」
「よかったよかった、俺ばっか走ってる感じしたからさァ、お前わかってる?世間からしたら俺すっげえイイ旦那なんだからな、そりゃお前は俺以外知らねぇから」
「うるさいわかってるから」
「まあ俺も土方しか知らねぇけどさ、でもやっぱりお前イイお嫁さんだよな、俺はちゃんとわかってるからな」
「ハイハイよかったね」

呆れたようにため息をつく、でも少し嬉しそうな土方の腰を抱き寄せても、なんの抵抗もなかった。









あっまい話になりました汗 二人とも素晴らしい旦那様と嫁さんなんだろうなと。

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