お話3

□年末感謝祭
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どんっと後ろから肩を叩かれて、土方はバランスを崩した。振り向きざまに刀に手をかけるが、それよりも先に身体の自由を奪われる。視界を占領した銀色に、土方は大きくため息をついた。相変わらずなのはもう諦めたが、いくら人通りが少ないとはいえこんな道の真ん中でへらへらと抱きつくのはやめていただきたい。こちとら年末の見回りで忙しいのだ。これじゃあ緊張も警戒心もあったもんじゃない。

「メリークリスマス」
「…もう終わりました」
「あーじゃあ明けまして?」
「まだ明けてません離してくださいますか」
「うーん敬語の土方くんもなかなかに可愛い」

酔ってんのかコイツ、と足を蹴ろうとしたら華麗に避けられた。ますます憎たらしい。しかもご丁寧に腰を抱き寄せてくる。より近くなった銀時の顔は嬉しそうなのだが、土方の機嫌はあまりよくない。

「何か用ですかバカ天パ」
「えーっと、抱きおさめ?今年も終わりだもんよ」
「くだらねぇ理由なのはわかったから離せ」
「相変わらず冷たいねぇ」

結局今年もツンツンばっかりでデレることは出来ませんでしたね十四郎くん、と子供扱いするように土方を上から覗き込んで、銀時は両手を上げて土方から離れた。
わざとらしいその行為は頭にくるものの、温かかった人の体温がなくなって、多少心細くもなる。離れた銀時からは距離をとらずに、土方は肩が触れる近さで隣に並んで歩きだす。
冬も冬、いくら副長様とはいえ寒いのだ。息が白くなるこの季節でも、いつもと変わらない格好の銀時は頭が悪いのかとは思うが。むき出しの二の腕に冷えた手をぴとっと乗せてやれば面白いくらいに驚いた。そんな銀時を見て土方は楽しくなるのである。見回りも少し休憩だ。そこらの悪者よりこちらの方が、その気になればよっぽど面倒臭い。もしテロが起こったらこきつかうことにして、今は相手をしてやろう。攘夷派も年末で忙しいだろうし。

「あー年賀状とか全然気にしてなかったなーせっかく土方との結婚報告出来るチャンスだったのに」
「安心しろ、ウチは一生喪中だ」
「…悪ィ、そういうつもりじゃなかったんだけどさ」

がしがしと頭を掻いて、困ったような表情をする。一気に自分の立場が上がった気がして、土方はくすくすと笑った。たまに焦ったように気を遣いだす彼は見ていて面白い。

「万事屋は出すのか?」
「無理、紙買う金があったら食料だろ。出してぇけどな」
「意外だな、お前年賀状とかいう文化も忘れてそう」
「銀さんをなんだと思ってんだよお前は」

笑って、少し目線を落とした。

「ほらさ、一年終わりましたとか始まりますとか、ちゃんと区切りがねぇと怖ぇだろ?あとどんぐらい生きねぇとだめなのかとか、これがずーっとなんの変化もなしで続くって言われると疲れるからさ。まあ大したことない理由なんだけどよ」

珍しい。こんなふうに銀時の本音、いや弱音か、それを聞かせてもらえるのは初めてかもしれない。いつだって銀時は気楽そうで、腹の中ではなにを考えているかわからないのだけれど、でも土方が見る限り思い悩んでいることはなかった。
ずーっと生きるのが疲れる?なかなか寂しいことを言う。自分は銀時とできるだけながく一緒にいられたら、とさえ思ってしまうのに。薄情な奴だ。

でも今なら、と土方は銀時の横顔を見詰めながら思うのだ。助けてあげられるかもしれない。いつもしてもらっていることを真似すればいいのだ。

「なあに土方くん、俺ばっか見てないでちゃんと見回りした方がいいんじゃねぇの」

いつもは俺を見ろってうっとうしいくらいなのに、逃げているのか。ちゃんと弱いところもあるじゃないか、と土方は安心した。

「なあ」
「ん?」
「毎年大掃除するんだ。で、近藤さんがな」
「うん」
「また年越しストーカーとかしそうで、でも俺あのお妙さんとやらの扱い方わかんないし、あっあと大晦日にとっつぁんが蕎麦いっぱい持ってくんだホントにいっぱい、だからあのチャイナ娘とか来たらいいんじゃねぇかって…あっそれは近藤さんが言って」
「ありがとな」
「…おう」
「そうだな、毎年土方と年越しできたら一年過ぎるのも楽しみだな、ありがと土方」
「…どういたしまして」

どうしてだろうか、助けてやっているつもりなのに、いつの間にか自分が助けられているみたいだ。
でも銀時の目線は上をむいて、ほっとしたような顔だったから、仕方ない。

「あー土方に気ィ遣わせるたァ俺も成長してねぇなあ」
「どんどん退化していくんじゃねぇの」
「まあそんときは頼むわ、土方くんもなかなかに優しいイイ子だもんな」

くすぐったそうに笑う銀時の頬がかすかに赤くて、土方は自分の顔に熱が集まるのを感じた。








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クリスマス間に合わなかったので汗、年越し前の銀土です。
最近スマートフォンに乗り換えましてね、慣れない操作の中ぽちぽち更新しております笑 そのうちTwitterとかに手を出してみたいですねぇ…

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