お話3

□雪解け愛
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ずりさがった毛布をもう一度顔まで持ち上げて、土方は右手をストーブの前であたためる。先ほどから手がかじかんで筆が思うように動かない。
こんな日は布団に入ってぬくぬくとしていたかったのに、総悟の野郎。障子全開、いや障子がない。縁側はもちろん外も見えていて、時折冷たい風が副長室に入ってくるのである。
今朝方、沖田のバズーカ攻撃で障子がぶっ飛んだ。おかげさまで土方は雪の降る綺麗な景色を眺めながら仕事ができるのだ。ただしストーブをつけて、毛布にくるまりながらだが。

「トシ、やっぱり寒いだろ、俺の部屋くるか?」
「いいよ、大丈夫」

ストーブを運んできたのは近藤で、先ほどから何回も副長室を覗いては心配そうに声をかけている。
寒いのは寒いのだが、今ある書類を全部近藤の部屋に持っていくのは面倒で…いやそんなことよりも、もうこうなれば意地である。どうせ近藤に甘えたら沖田が茶化しにくるのだ。少しくらい寒くったって平気だ、と土方はストーブにあてた右手で頬をあたためながら再度気合いを入れる。

そういえば、昨日見回りをしていた時に雪だるまをつくる子供たちを見た。道のはしっこにあったそれはかなり大きくて、鼻と耳を真っ赤にした子供たちは嬉しそうに笑っていた。
万事屋のところのあの年少組も似たようなことをするのだろうか、じゃあ銀時は父親みたいに付き合うのかもしれない。いちいち大きさや顔の部品で言い合うのだろう、雪だるまごときに真面目になって指示を出す銀時の姿を想像して、思わず緩んでしまった口元を誰かが見ているというわけでもないのに毛布で隠した。

縁側の向こうにある銀色の世界を見ると、なぜかあのふわふわの銀色天パを思い出すのだ。寒さで人肌が恋しくなるのか、ストーブの前はあたたかいのに。

「…総悟の部屋雪だるまで埋め尽くして極寒にしてやろっかな」

どれくらいの雪があれば願いは叶うのだろう、などと思いながら書類をとんとんとまとめていると、不意に縁側に気配を感じた。

「…万事屋?」

一瞬あの銀色が見えた気がした。が、外を見ても誰もいない。保護色にうまく溶け込んでいるのだろうか。
そのとき、視界の端にうつったものが。

「…あ」

小さな雪だるまが土方の方を向いて笑っている。それも気づかないうちにたくさん。ちゃんと一列に真っ直ぐ並んでちょこんと立っているそれに楽しくなって、土方は毛布をひきずって縁側へ向かった。
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