お話3

□酒と下唇とトシャブツ
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真っ白で所々に傷痕のある、今すぐにでも噛みついてやりたい身体が目の前にあった。縁側からこっそり侵入したのに、布団のなかで俺を待っていると思っていたのに、愛しの土方はタオルで頭をふいていた。
風呂上がりか、上半身は裸で、しかもズボンはベルトはおろかチャックさえしめていない。半分ずりさがった黒いズボンから同じく黒い下着が見えていて、思わずごくりと喉が鳴った。

「…なんか用」

副長室に入ると同時に廊下から入ってきた土方は面倒くさそうに俺を見る。ほんのり色づいた肌に髪から雫がおちていやらしい。まったく、自分の色気の半端ないことくらいわかっているだろうに。

「夜這いに」
「まだ早いだろ、てか不法侵入ふざけんな」
「神楽が新八んとこ行って暇だったし」
「暇潰しで抱く気かよ最悪」

目の保養、いや毒ともいえる光景にたまらなくなって抱き寄せようとしたらペシリと頭をはたかれた。不機嫌そうな顔だが、頬が赤いので怖くはない。

決して暇潰しではなくて、夜這い計画を万事屋全員で考えていたんだと弁解するが、ハイハイと軽くあしらわれて相手にされない。憧れの夜這いを果たすために神楽がそのきたない字で予定表まで書いてくれたことを土方は知らないだろう。そんなこと、恥ずかしいから言わないけれど。

「ザキ」

土方が部屋からちょこっと顔をだして山崎を呼んだ。すぐに廊下を走ってくる彼を見て、土方が俺の後ろに隠れた。背中ごしに廊下の方をうかがう土方をわけがわからずそのままにしておいたが、一歩遅れて例の地味な監察が部屋に入ると土方は背中をばしばしと叩いた。
ん、と顎でさされた先を見れば地味男が鼻からぼたぼたと血を垂れ流して土方の黒い着流しを差し出していた。それを取れ、という意味らしい。

「ご苦労、畳に血ィつけたらころすからな」

飛び上がって逃げて行った彼のうしろ姿を眺めていると、また背中を叩かれた。

「返せ」
「…一体なにしてたわけ」
「総悟とあそんでたら頭から酒ぶっかけられたから風呂入って」
「そしたらそんな破廉恥な格好になったのか、めでてぇこったな」
「うるさい」

頬が赤いのは風呂のせいではないらしい。間近で見ると、いつも鋭く光っている目はとろんとしていて、声もなんだか柔らかい。
俺のいないあいだに野郎と酒か、お遊びか、この薄情者!

「シャツだめになったから着替えようと思ったら着流し隠しやがって、お前みたいなことするし」
「んだとコラ」
「ザキは俺みて鼻血出すし、近藤さん寝ちまうし、総悟は隊士にむりやり飲ますし」

あー疲れた、帰れ。
俺の手から着流しをひったくって着替えはじめる土方がそう言う。そんなことを言われたって、生着替えを目の前でされたあげくに土方は半分酔っぱらっているのだ、そんなご命令なんて聞けるわけがない。こちとら夜這いにきてるもんで。

「…なに、やんのか」

相当飢えた顔をしていたのだろうか、土方が呆れた表情で俺を見下すように言った。
せっかく着流しもどってきたのに、と全然関係のないことを心配されてすこし腹が立つ。自分の上から目線が、俺の加虐趣味をより一層確固たるものにしているということを土方は知らないだろう。可愛い奴だ。知っていてそんな行動をとるのなら、また面倒な小悪魔に引っ掛かってしまったわけになるけれど。

「お前が物欲しそうな顔すっからな、ホラ脱げよ」

チッと舌打ちを一つして、なんとも嫌そうな顔をして俺の言うことを聞く土方は、やっぱり可愛い。

不機嫌そうに見えても、結局、土方は、俺のことが結構好きらしい。
抱いてやれば口から出るのは「へたくそ」だの「その体位ならやめる」だの、それはそれは憎たらしい言葉なのだが、最後には気持ち良さそうにしているわけだし、おわったあとは大人しく俺の隣で寝ていることだし。思い上がりか?でも、俺はそれで結構。自信もなく土方を抱こうなんて思ってはいない。

「あー…きもちわる…」

今日だってなんだかんだ言ってよがっていたのだが、急にそんなことを言った。

「テメェ人に抱いてもらってるときになに言いやがんだよ、ホラ集中しなさい」
「…吐くわ」
「はぁ!?」

のしかかって土方の脚をひろげていた俺を遠慮なく蹴って押し退け、そのまま障子を開けて縁側で本当にげえげえ吐きやがった。ムードもなにもあったもんじゃない。
勘弁してくれ、とため息をつく俺を振り替えって見て、土方がククッと笑った。悪人みたいなその顔は、月に照らされて、口の端にゲロがついていても綺麗だった。

「抱く気失せただろ、お前ムードとかそういうくだんないこと好きだもんな」
「テメェ銀さんの精液吐いただろふざけんな」
「あーまずかったから酒と一緒に出ていったわ、悪かったな」
「わかったお仕置き決定な」

それはどうでもいいから、と土方がもどってきて顔を差し出した。

「ん」
「なんだよ」
「拭け」
「あぁ?誰がゲロなんか拭くかよ、それが人にものを頼む態度か?」
「テメェ自分で出したのも入ってんだろうが処理しろバカ」
「土方くんそれ自分のゲロだからね、自分で処理しようね」
「誰がこんなきたねぇもん触るかよ、お前の着流しでいいから拭いて」

かぷ、と下唇にかみついてきた。焦れたのか、土方はおねだりの仕方をよく知っている。上目遣いに見ながら甘噛みとは、なんと高度なこと。おねだりと言っても横暴で、土方の唇だって多少ゲロの味がするあまりいいおねだりてはないのだが。

「ぎんとき」
「…あのなぁ」

覚えてろ、と捨て台詞を吐いて、一張羅をとった。
こういうことでしか、きっと土方は甘えられないのだろう。

「あースッキリした、寝るか」
「オイオイ俺は朝まで寝かせるつもりねぇんだけど」
「お前ゲロ見てよく萎えねぇな、やっぱ変態なんだな」
「…明日休み取っとけな」

汚れた着流しを放って首を左右にゴキゴキと鳴らしてやる気を見せていると、土方がまたひっついてきた。
舌を入れられて驚く俺を見て満足げに笑う。すぐさまその味に嗚咽する俺を見てあまり見ることのない嬉しそうな顔をした。
こんなにもコイツの気まぐれに付き合ってやっているわけだ、少しくらい、本気を出してもいいだろう。その気を出さずに身体を気遣ってやるのも、今回は休みだ。本能に忠実に抱いてやる。

「遠慮なしにがっつくつもりなら明日休みとる係お前な、近藤さんにどう言い訳するか考えとけ」

密かな気遣いにも気づいているとは、面倒臭いたらありゃしない。
けれど、どうしようもなく、好きだ。



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げろげろすいませんでした汗

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