パラレル

□その十三
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なぁ、と顔をのぞきこんでも、土方はうっとうしそうに目を逸らす。相変わらず彼は書類が大好きらしい。淡々と進めていくが、ついこの間までは俺が話しかけると多少の返事はしていたのに。
嫌われた?沖田か山崎あたりになにか吹き込まれたのか、本当に愛想が尽きたのか。土方に愛想なんて無いに等しいものだけれど、前より冷たくなった気がする。

「なに、なんか怒ってんの」
「…べつに」
「それ絶対怒ってる奴が言う言葉だよな、お前怒ってるよな」
「…なんもない。怒ってない。しね」

わかりやすい男だ。そんなのでよく真選組を動かせるよなあと思う。そりゃあ、幕臣の前では多少嘘がうまいのかもしれないけれど。
…そんな儚い土方のくせに、よく、感情を押し殺せるなあ、と。感心じゃない、尊敬でもない、呆れているわけでもない。
どうして、俺にはそれがわからない。確かに真選組は大事かもしれない。近藤のためにもなるのかもしれない。でも、いつか「怖い」と言っていたくせに、どうしてまだ身体を開くのか。なんで耐えられるのだ。

それが、心配だ。だから、この間だって。

「副長」
「なに」
「いやっあの、…旦那、ちょっといいですか」

「俺のザキ」に呼ばれなかったことが気に食わなかったのか、土方がさらに機嫌が悪そうに頬を膨らます。

「どうせ何か説教でもするから銀さんをご指名なんだって、拗ねんなよ」

土方は、立ち上がった俺の足を黙って殴りやがった。

「…で、旦那」

副長室をでると、あの地味な監察が手招きして俺を外へ連れ出した。声をおさえて、真面目な顔で、切り出す。

「…浮気、したんすか」
「…は?」
「や、だからこの前旦那、女引っ掛けたんでしょう?」
「あー…」

女は、買った。けれど、情報収集のために金を払っただけだ。土方と遊んでいらっしゃる幕臣様の、情報に。
土方本人に報告なんてする気はないし、勝手な行動は土方が許すはずがない。

できることなら、俺一人で斬ってやりたい。すがる相手がいなくなれば、土方が身体を開く必要もなくなるわけで、…それで真選組がどうなるのかはわからないけれど。
でも、俺は、そんなことよりも、早くそのお偉いさんを斬ってやりたかった。独善かもしれないこれど、それでいいと思うのだ。

ばれたらばれた時で女に飢えていましたと言うつもりだったのだが、まさか、そんな単語がでてくるとは。

「…浮気、つった?」
「はい、旦那はとっくに副長とできてると…」
「土方はどう言ってんの」
「ウチじゃ女を引っ掛けるのも珍しいことじゃないからって…特に何も」

じゃあ本来の目的はばれていないらしい、ならよかった。でも。

「でも副長拗ねてません?」
「ただ単に機嫌悪いだけだろ」
「おっかしいなー…煙草もマヨもちゃんと買ってきたのに」
「…アイツに、…浮気、なんて定義、あんのかよ」

まだきちんと恋人同士になったわけでもないのに、なってくれるはずもないのに、そもそもあの"浮気"の塊みたいな土方が…ありえないだろう、それは。

「でも俺、ああいう副長を見るのは初めてで…こう、誰も悪いことしてないのにむすっとしてるのは」

隊士の誰かが失敗したり俺が思い通りに情報持ってけない時も拗ねることがあるんですけど、その時は比じゃないくらいに恐ろしいですし。

「だから、てっきり嫉妬でもしてるのかなって」
「…あぁそう、あの土方くんが」
「いいなー旦那、俺一回でいいから副長に嫉妬させてみたいですよ、パシっていいのは俺だけなのにーみたいな」
「ハイハイ」
「とにかく旦那、副長怒らせたら怖いですからね、早めに謝っといた方がいいですよ!」

そう言った山崎は、こんなところで立ち話なんてしてる場合じゃないとでもいうように、走って仕事に向かっていった。
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