お話3

□変な心
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好きだと言うと、ありがとうと返された。その返事に銀時が面食らっていると、他になにかご用はありますか、と土方は笑う。あまりにも綺麗な笑みだったから、なにも言えなかった。そうしたら、土方は、何事もなかったように去っていった。
女に困ったことのない銀時には、初めての経験だった。そんな昨日だった。

「…ヘェ、土方さんですかィ?」

気がつけば、自然と彼の姿を目で追っていた。美人だからか、その意外と繊細な中身にやられたのかはよくわからない。だがそんなことは銀時にはべつにどうでもいいのだ。ただ、アレを自分のものにしてみたいと、もっとよく知りたいと、…これが好きだという気持ちなんだとわかるまでにそう時間はかからなかった。

「あのお人はそう簡単には落とせやせんよ旦那ァ」

土方に好かれているとは思っていないが、嫌われているようでもなかった。だから、少しずつでも攻めていけばいいと思っていた。
一度好きだと言えば、嫌でも意識するだろうと。だが昨日の土方は一体なんだ。

「あぁわかりやすよ、慣れてるって感じでしょう?」

あんなふうに返されるのは、銀時の男としてのプライドにもさわった。もちろん嫌いだと言われるのも御免だが、小バカにしたように色目を使いやがって。その妖艶な笑みにさらに心を奪われた銀時は、思った通りに動かなかった土方に動揺しているし、困っている。

この俺が、片想いなんて。

「土方さんはやめときなせェ、落としたところですぐどっか行っちまうぜィ」
「…それはさ、ライバルを少なくしようと言ってるわけ?」
「まさか、俺ァあんな気まぐれなんかお断りでィ」

アイツのケツでも狙ってみろィ、一瞬で殺されまさァ。
世間話でもするように隣に座って団子を頬張っていた沖田は、その語調とは裏腹に、なかなか鋭い目をしていた。どうやら銀時と同じらしい。ただし、こちらは想っている年数が違う。

土方は、そういう人間なのかもしれない。簡単には落とせない、高嶺の花だとかいう。花と言うには少々恐ろしすぎる人間か、たしかに花に匹敵する美しさだけれど。
とにかく、土方は手に入らないらしい。叶わない恋をする趣味はない。敵の多いのも御免だ。ここは大人しく諦めるに限る。少し気になっただけだ、そう本気になる必要はない。
銀時は、そう自分に言い聞かせて、味のしない団子を咀嚼した。

「あ、総悟!」
「げっ見つかっちまった」
「人が働いてんのに団子かよ、ふざけんな」
「俺がいながら旦那に浮気でしょう?ふざけんじゃねぇや」
「はあ?」

呆れた土方の目が、沖田に指をさされた銀時をとらえた。

「…どうも」
「旦那は土方さんを落とすつもりらしいですぜィ?また面倒な男釣っちまったねィ」
「うるせぇとにかく屯所もどるぞ」
「へーい」

俺はこれで、と沖田が軽く頭を下げる。嬉しそうなその顔が、銀時は憎たらしくて仕方がなかった。

「じゃあ旦那、頑張りなせェよ」
「バイバイ土方くん」
「あーあ、アンタしか眼中にねぇみてェだ、土方さん、ちゃんと挨拶して帰りやしょーね」

ふざける沖田の頭をぱしりと叩いた土方は楽しそうな顔をしていて、銀時のよく知るあの色気の塊とは違った。バイバイと言って綺麗に別れてやろうと、きわめて一方的なのだが、さっぱり忘れようと、思ったのに。

「…ばいばい」

先に去っていく沖田の背中を追いかける土方が、一瞬ふり返って、沖田の言う通り手をふった。
やっぱり、あの妖艶な、しかしあざけ笑うようにも見える笑顔だった。忘れてやるつもりだったのに、その土方に銀時は欲情していた。

「土方は俺のことどう思う?」
「お前相手には欲情しない」
「あぁそう、そりゃどうも」

今度こそ手をふって、銀時は立ち上がり二人に背を向けて歩きだした。
諦めるどころか、会話が一つ成り立ったことに喜んでいる自分がいる。ほんとに、変な心。






***
イケイケ銀さんの誤算、でございました。副長様ほどの男ですから、とりあえず沖田さんあたりから攻略していかないとたどり着けそうにありませんねぇ…落とした暁には、逆に銀さんがもてあそんでやるような関係になってたりしたらおもしろいです(*^^*)

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