お話3

□鼻の取り外し方
1ページ/1ページ

息ができなくなると、酸素不足になるのか、頭が回らなくなるらしい。隣に座る土方を見詰めながら、銀時はそう思った。

鼻の取り外し方を教えて、とかみすぎたのか鼻が赤くなった土方が万事屋を訪れた。今日は非番らしくあの黒い着流しで、手にはタオルをぶら下げてやって来た。

「大丈夫?」

新八神楽と買い物に行こうと万事屋を出た時に、神楽が指をさした方向、そこにふらふらと歩いてくる土方がいた。 本当に、あぶなっかしい歩き方だったから、買い出しを二人に任せてかけよったのだが。

「ぜんっぜん大丈夫じゃらいしね」

いくら万事屋とはいえ、鼻の取り外し方は知らない。花粉症なのかと問えば見たらわかるだろうと不機嫌そうに返す。相当参っているらしい。
さきほどから呂律の回らない土方はなんだか酔っぱらいのようで、思わず銀時はくすりと笑ってしまった。赤い鼻、うるんだ目、どうやら花粉症の土方にはとてつもない威力があるようだ。

しね、花粉しね、と子供のようにぶーぶー言っている土方に、銀時はティッシュを提供することしかできない。だが、それしかできないであることをわかって万事屋に来たのであれば、なんて可愛いのだろうと銀時は鼻をかませてやるのだ。大人しく顔を上げてされるがままになっている土方は、本当にあの副長かと言いたくなる。

「病院行かなくていいのか」
「真選組副長が花粉症なんて知られたらてろりすとにばかにされるからいや」
「あぁそう、でも辛いだろ」
「お前になにがわかるんだばか」

あぁもう、と何に当たればいいのかわからないのだろう、土方がばしばしと銀時の腕を叩いている。息ができないのはさぞかし辛いだろう。いまキスをして、舌でも入れようものなら、殺されるかもしれないなァと銀時はのんびりと考える。
こんな花粉症一つで日常が埋まる、それはすごく幸せなことだ。辛くて半泣きの土方をなだめてやること、黙って八つ当たりされてあげること、このティッシュかたいから嫌だと言われること。幸せすぎて、自然と笑ってしまう。

「なに笑ってんだばかしね」
「土方くんさァ、俺にしねっていうために万事屋来たの?」
「ぇっくしッ…」
「くしゃみ可愛いなコノヤロー」
「あーあーあーもうばかー」

ごんごんと銀時に頭をぶつけてくる。いよいよ酸素ゲージが赤くなりだしたか。

「万事屋は知らねぇんだろ、知らねぇんだろ、あーもう」
「ごめんごめん、こればっかりはどうしようもないんだよねェ」
「ほんっとに嫌なんだからな、総悟も大げさとか言いやがるけど違うからな」
「ハイハイそういやあ鼻を取って洗いたいんだっけ」
「うん」
「上むいてみ?ホラ」
「お前鼻水すする気だろ、へんたい」
「チッ…バレたか」

鼻の取り外し方は知らないようだが、銀時の取り扱い方はよくご存じのようで。
頭をぶつけてから半ば抱きつくように花粉症の辛さを訴えてくる土方の目に、またじわりと新しい涙が浮かんで、恋愛感情というよりは、母性本能みたいなものが、銀時の心を満たした。

「あーでる、でるけどでない、」
「くしゃみか?」
「ほんっとに辛いんだからな」
「それはさっき聞いたからわかってるよ」
「んーっ…ばかお前がしゃべるからでなかった」
「わー濡れ衣だー」

だだをこねる子供の相手をしている気分になって、土方の頭をわしゃわしゃと撫でてやった。途端にまたくしゃみをした土方に、ホラでただろ、とのぞきこむと素直に頷いた。花粉症バンザイである。

「鼻とって洗いてぇこれやだもうやだ」
「俺のと交換できたらいいのにね」
「そんなん無理に決まってんだろばかじゃねぇの」

鼻を取ると言ってるのもばかだけどね、と言うのはやめておいた。万事屋には鼻を取るためにいらっしゃったのだ。甘えたいだけ甘えさせてやればいい、と銀時はゆっくりと背中をさすってやった。
銀時と、銀時の腕の間で、またくしゃみをした土方を見ると、この男のためなら本気で鼻を取り外す方法を探してやろうかなとも思うのだ。自分は花粉症にならなくとも、土方絡みになると年中酸素不足なようである。いやではないけれど。




***
花粉症が辛うございますぅぅ泣 なぜか左目から涙がとまりません(*ToT)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ