お話3

□未来像、紋付きを添えて1
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先日のテロ鎮圧で軽傷とはいえない怪我をして病院に閉じこめられていた土方は、久しぶりに外の空気を胸いっぱいに吸いこんだ。
今日は待ちに待った退院の日。三日ほどの入院だったが、土方にはものすごく長く感じられた。沖田が暴走しているのではないか、書類はきっと積み重なっているのだろう、そう思い始めると寝転んでなんかいられなかった。今日の退院も頑なに「屯所に帰る」と言い張る土方に病院が根負けしたためである。まだまだ本調子ではないが、あの真っ白なだけの空間にいるよりかはよっぽどいい。

上機嫌だった。あの恐ろしい点滴やら禁煙やらから解放されたのだ。土方はるんるんとスキップでもしたいくらいに、心をおどらせて屯所へ帰った。
機嫌は、一気に悪く、いや、むしろパニックになった。

「副長ォォアンタ万事屋の旦那といつのまに…!なんで俺に言ってくれなかったんですか!」

屯所の門をうきうきとくぐった途端、山崎が泣きついてきた。

―万事屋の旦那、といったか。

土方は、まだ銀時との恋人関係を隊内に知らせてはいない。それは副長としての立場がどうのこうのより、ただ恥ずかしいからという理由だけだった。知らせたところで、どうせ隊士達からちやほやされて、からかわれるだけだ。銀時本人は、江戸中の人間に教えたそうにしていたが。
沖田あたりはうすうす気がついていそうだが、山崎には銀時の話をした覚えはない。もし彼がその監察の能力をもって知ったのなら、副長室で静かに言及するか落ちこむかして、こんな屯所のど真ん中では泣きつかないはずだ。

しかし、山崎の言動からして、どうも自分で知ったというふうではない。

「副長ォ!万事屋の旦那は副長の旦那なんですか!?結婚て本当ですか!?」
「…は?」

聞き捨てならぬことを叫びながら走ってきたのは原田だ。結婚てどういうことだ。そもそも山崎にバレるのはわかるがなぜ原田が知っているのだ。

「そうですよ副長!副長が旦那とデキてるのは俺もなんとなくわかってましたよ!それが結婚だなんて!」
「待ってザキ、もっかい言って」
「“真選組の土方十四郎の夫が坂田銀時であることをここにしるす、ゆえに土方には触れるべからず”、将軍直々の命ですよ!」
「…意味わかんない。え、意味わかんない。…いみわかんない!!」

本当に、わけがわからない。土方の夫に坂田銀時? そんなふざけた命を将軍が出しただと?どうしてそんなことを将軍様が知っているのだ。てかなんで上様が衆道支持!?

嘘だろ、と土方は放心寸前の二人を押しのけて局長室に走った。退院直後でうまく身体が動かないが、そんなことに構っているひまはない。

「あぁトシ、いいところに来た。身体はもう大丈夫か?」

机の前でなにやら真剣な顔をして座っていた近藤が、土方を見て白い歯を出して笑った。久しぶりに近藤を見ると、こんがらがっていた頭も少し落ち着いた。

「そんなこたァどうでもいい、近藤さん、話があるんだが」
「俺も話があってな、実は」
「ザキ達から聞いた、将軍さんがとんでもねぇことを言い出したらしくて」
「そうなんだよ、トシならちょうどいいと思うんだが」
「オイオイそんな涼しい顔すんなって、あいつらであんなんだから隊士ども大騒ぎじゃねぇの」
「なんで、トシが一番ふさわしいだろ、真選組じゃまともな人間だし美人だし気もきくし…俺はトシ以外ありえねぇと思うがな」
「それは…」

銀時の相手に、土方以外ありえねぇ、だと。思わず頬を染めて黙る土方だ。
土方の恥ずかしがる言葉を、いつも近藤は惜しげもなく浴びせる。決して嫌な気分はしないが、土方はこういう雰囲気は得意ではない。

「むこうだってな、トシが気になってるらしいぞ」
「…それは知ってるよ」

あの変態天パの想いは、自分が一番よく知っている。そう土方は自負していた。

「なんでも初めて真選組を見たとき、ほら何度か登城しただろ?あのときから憧れなんだってよ」
「…は?憧れ?」
「平和なお城生活じゃ真選組みたいな連中は目新しかったんだろうなぁ、一気に興味をもったらしくてな」

どうも噛み合っていない。

話が噛み合っていないのはともかく、さっきまで銀時の件について話しているとばかり思っていた自分が、近藤の言葉に嬉しくなっていたと思うと頭をかかえて叫びたくなった。
銀時の想いは自分が一番知っているーなんて恥ずかしいことを…!
うわぁぁ、と自己嫌悪に浸る土方には全く気づいていない近藤が頷いて言う。

「まぁ見合いといっても本物のじゃないからな、年頃のお姫様の可愛らしいお願いだ、トシもまだガッツリ仕事ってわけにもいかねぇから、この件は頼んだぞ」
「…み、…あ…い?」
「美味いもん食えるんだぜトシ、こりゃ怪我してよかったかもな」

ハッハッハ、と笑う近藤に土方は口の端がひきつるのを感じた。こちらもこちらで、わけのわからない話があるらしい。
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