お話3

□居心地のいい男
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土方は唸った。

朝の見回りが終わって副長室に戻ったら、銀時が大の字で寝ていた。それも大きないびきをかいて、気持ち良さそうに寝ていた。ガーガーいっているものだから、無呼吸なんとかという単語が頭に浮かんで、土方はしゃがみこんで銀時の肩を軽くつついた。うーだかんーだか声を上げた銀時は、仰向けのままがしがしと頭をかいて、手を頭の上に投げたしたまま、また大きな寝息をたてはじめる。

これは起きないな、とため息をついた土方は、押し入れから掛け布団を引っ張りだして、銀時にかけてやった。ごそごそと布団を肩まで持ち上げる銀時のあつかましさは、寝ていても変わらないらしい。今日は本来非番であったので、着流しに着替えて、そのまま机の前に座った。

昼の暖かな日ざしが縁側から入ってくる。書類に筆の影がうつって、心地よい風も感じられて、あぁ春がやってきたのかなぁと、土方は頬杖をつきながら、その陽気にあくびをもらした。春だから、少しは仕事を忘れて暖かさを満喫してもいいだろう。ちょうど後ろで寝ている銀時のように。

どうして銀時が副長室にやってきたのかはわからない。土方に会いにきたのか、いやそれなら寝ずに待っているはずだ。少し自惚れているような思考だが、銀時が副長室にいた場合、土方が帰ってきた途端に抱かせろだのちゅーしたいだのを言ってくるのが普通だ。
なら純粋に昼寝をしにきたのか、と土方は振り返って銀時をじっと見詰める。万事屋で寝たらいいのに。ここにくるものだから、土方は構ってもたいたくてたまらなくなるのだ。

ゆるやかに上下する胸や、半開きの口に引き寄せられるように、銀時の隣に座った。またいびきをかいている銀時の顔は、思った以上に整っていて、案外男前なものだとふと思ってしまい、土方は一人ほんのりと頬を染めるのだ。

うー、と、唸った。

寝たい。
銀時の匂いに包まれたい。
ぎゅうぎゅうしてもらいたい。
上に乗っかって、寝たい。

でも、銀時が起きたときが面倒だ。恥ずかしいし、後から何度もからかわれそうだ。第一ここは副長室なのだ。もし隊士に見られたら、絶対沖田に伝わる。そうなると、もう収拾がつかない。

今度は銀時が唸った。暑くなってきたのか、布団を剥いでいる。身体が半分はみだした状態は、なんだか抱き着け抱き着けと言ってくるようで、土方の我慢は限界に近づいた。

どく、どく、とすぐそばで心臓が動いている。銀時の胸あたりに頭をあずけた土方は、彼に乗っかって、重なるようにして寝転んだ。土方が乗ったときに重みを感じたのか、一瞬銀時のいびきは寝息に変わったが、すぐにまたガーと音をたてる。

温かい。子供か、と笑ってしまった。触れている部分から、土方の全身がぽかぽかと温かくなっていく。息を一つ吐いて、そのかわりに大きく息を吸い込んで、土方を目を閉じた。

さらに温かい銀時の手が、土方の背中をいったりきたりしている。なにかを探すようにしばらく動いた後で、土方の髪に触れた途端に、頭を手のひら全部で胸に押しつけた。
無意識か。本能的なものか。

――なんて、幸せなんだろう。

もう少し頭を銀時の顔に近いところにおいておけばよかった。鎖骨までずず、と上がろうとしたとき、銀時が寝返りをうった。横むきの銀時の上から落ちた土方を、今度は両手で抱き寄せる。
そろそろ意識が浮上してきたか、小さく笑った土方は、ぴん、と銀時の額を指で弾いた。

「…ぅえ?…んだ、土方か」

細く目を開けた銀時が、きっと焦点の合っていないであろう目で、土方を見る。息のかかる距離で、土方は酷く安心した。

「ここ俺の部屋だから」
「…おはよう」

言いながら、ゆっくりと布団を土方の肩までかける銀時は、どうして布団があるかも知らないのだろう。そのくせ、身体がはみでていた土方に「寒くないか」と寝ぼけながら声をかけるのだ。もう外は春だというのに。

「…そっか、俺寝てたか」
「寝るためにきたのか?」
「や、会いにきたんだけどさ、あったかくて気持ち良かったから」

ふあーと大きくあくびをした銀時が、腕を伸ばした。銀時が言う前に二の腕の上に頭を乗せた土方を見て、銀時は嬉しそうに笑う。

「布団出したの俺だ」
「ありがとう」
「今日非番だ」
「起こしてくれたらよかったのに、昼寝なんかしてる場合じゃなかったな」

遠回しに、構ってあげられなくてごめんな、と言われているような気がして、土方は顔を赤くするのだ。

「寝起きに一発、といきたいとこだけど」
「ばか」
「お花見でも行くか?」
「まだ満開じゃねぇよ」
「じゃあどうしよう、非番ならデートしてぇなぁ」

土方は?と聞かれて、目をそらした。

「デートは嫌か、さみしいねェ」
「…べつに、…俺は、」
「ん?」
「…もうちょっと」

もうちょっと、このままがいい。せっかく布団を出したのだから、まだ時間はいっぱいあるから、もう少し、この距離にいてほしい。

それを聞いて、そうだな、と笑った銀時は、腕をまげて土方をぎゅうぎゅうと抱きしめた。そんなに引っ付きたいわけじゃないと土方は笑うが、布団の中がやけに暑くても、嫌な気はしなかった。こんなに居心地の、また寝心地のいい男は、銀時しかいない。







春ですがまだ寒い日も多いですねぇ…泣 桜はいつになることか( ;∀;)

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