お話3

□La Liste
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銀時はひきつった顔で、両手をあげた。目の前で黒く光るのは、あのおそろしいバズーカ。なんで我が家でこんな目にあわないといけないんだ、とつぶやいてみるが、家賃を滞納するのが悪いんでィ、と一蹴されさらに高く両手をあげさせられる。だから降参だって言ってるでしょうが!

御用改めである、と万事屋の玄関を破壊してやって来たのは沖田と例の地味な監察だった。一体なんの御用だというのだ、お宅らの副長にセクハラした覚えはない。それどころかもう一週間も会っていないのだ。こっちが御用改めしたい。おもに夜這いになる訳だが。

「…旦那、その着流し何日目ですかィ」

やけに真剣な顔つきで沖田が問う。

「えっこれ?えとね、あー昨日はさ、動いてねぇからさ、汗もかかなかったし、要するに」
「要するに洗ってねぇヤツかィ、そりゃ結構、よし山崎、回収」
「了解」
「はあ?俺の着流し回収?」

追い剥ぎにでもあうかのように山崎に着流しを奪われる。ちょうどバンザイをしていたわけだから、するりと簡単に脱がされる。まったく意味がわからない。
どこから出したのか、その銀時の着流しをビニール袋に入れ、しっかりと口をしばって山崎はビシッと敬礼をした。

「目標、確保です」
「はあーったく土方のヤローめんどくせぇモン書きやがって…あとは旦那に任せて、俺らは帰るぜィ、今日の仕事は終わりだ」

あくびをしながら、木端微塵になった(元)玄関をまたいでバズーカを背負った沖田が出ていく。ビニール袋をさげた山崎が紙切れを銀時へ差し出した。

「実は副長が寝込んでまして、ハイ、これ買いものリストです」
「…はい?」
「旦那ァそれとっとと買って土方さんとこ行ってくだせェ」

行って“やって”くだせェ、と聞こえる表情をしていた。困ったように笑う顔が玄関からのぞいている。そんな沖田に、仕方ない、と肩をすくめると山崎を連れて帰って行った。

どうしたモンかねェ。
渡された紙切れをながめながら、銀時は、うーん、と唸った。すでに新しい着流しに着替え、一気に風通しのよくなった万事屋で頭をがしがしと掻いている。

○たばこ
○まよ
○熱冷ましシート
○軽食

上のと下の字が全然違うから、きっと別の人間が書いたのだろう。
「たばこ」「まよ」からして土方か、それにしてもなんとも可愛らしい字だ。ひらがなだが、急いで書きなぐったというふうでもなく、墨の濃さや筆遣いからゆっくりと落ち着いて書いたようにうかがえる。

熱冷ましシート、…どうやら寝込んでいるのは熱が出ているからなのか。どうりであの副長大好きコンビがよく働いているわけだ。
とにかくこれを買っていけばいいらしい。依頼だ依頼、と大きく伸びをして万事屋を出た。玄関壊れましたー、とお登勢の店に向かって叫んで、あのおそろしい機械が出てくるまでにバイクを走らせる。



「あっ万事屋の旦那!」

近くのスーパーから屯所に向かっていると、見回り中か、真選組の制服を着たハゲに呼び止められた。

「えー…っと、どちらサマで?」
「ひどいっすよォ初めてじゃねぇでしょ、原田です原田!」
「あーハイハイ、んでなんか用か」

副長からあずかってきて、と差し出されたのは、また紙切れだった。今度は先程よりもずいぶん小さい紙切れ。

副長からの買いものリストは全部万事屋の旦那に渡せと沖田隊長から命令が下ったんで、と原田が言う。

○あと

あと?あと、とは一体何だろう。何かの跡、なのか、あとで、とかの後なのか。眉を寄せて原田を見ると、向こうも首をひねっている。

「副長、この前の捕物で結構大きな怪我しちまって、ここんとこずっと熱出してんすよ、何か欲しいものあったら紙に書いとけって局長が言ってたもんだから…でも、”あと“って何でしょうねぇ」

熱のせいで頭が回っていないのかもしれない。まず、土方がこんなふうにひらがなだけで物を書くというのも珍しい。女みたいだ。確かに字は女っぽいのだけれど。でもあの土方だ、紙切れにだって意地を張りそうなのに。さては相当疲れているか。

「あっ万事屋!」
「んだ、今度はゴリラか、悪ィがバナナは買ってねぇぞ」
「違う違うこれ!トシの!」

また紙切れだ。土方のヤロウ、大人しく寝ておけよ、と銀時はため息をついた。

○しろのきながし

着流し、先程あの二人に追い剥ぎされたものだ。
ということは、だ。銀時の着流しは、土方が欲しがってリストに加えたことになる。寝込んでいる彼が、銀時の着流しを。

「白っていえば万事屋しかいねぇだろ、」
「お宅の隊士さんらにもう盗られたよ、あとで慰謝料請求してやる」
「請求のついでにトシのところまで行ってやってくんねぇか、もうトシったら汗かいてるとかなんとか言って包帯かえるのも着替えるのも嫌がっちまって」

それならお安い御用だ、と銀時はふたたびバイクを鳴らす。スピード違反がなんとかと後ろで叫ぶゴリラの雄叫びは聞こえないふりをした。



○こおり

屯所の門番にもらった紙切れだ。氷くらい、屯所にだってあるだろう、何でもかんでも俺に渡しやがって、と銀時は苦笑する。真選組の連中に土方の彼氏として認めていただいているなら、少しくすぐったい嬉しさを感じるけれど。

○いちごぎゅうにゅう

屯所に入ったところで渡された。いちご牛乳?熱が回って味覚がおかしくなったか、いつも銀時が飲んでいるのを見て、甘ったるいモン飲むなと文句を言うだけなのに。

○じゃんぷ

氷をとってきてやるために食堂に行ったら渡された。

○とうやこ

洞爺湖、は、銀時の木刀に彫られている。

「旦那ァ遅かったですねィ、土方さんのびてんじゃねぇの」
「お前らが後から後から紙切れ渡しきやがるからだろ」
「土方さんの字だとか言って保存しとくんでしょ」
「ああそうだよだって可愛いもんなにか!」
「これでラスト、らしいですぜィ」



○よ ろ ず や



気づけば副長室へつづく廊下を全速力で走っていた。

「土方くんお元気ですかああ!」

スパァンと襖を開けて愛しの副長さんにダイブした。目をこすっていた土方は、銀時にぎゅうぎゅうと抱きしめられて、うぅ、と唸る。

「…いった…痛い」
「あぁ悪ィ悪ィ、ほら銀さん買ってきてやったからこれ」
「まよ」
「はいはい、でも先に軽いモン食え、な?」
「…んー」

おでこをひっつけると、やはり熱い。汗ばんだ髪をかきあげてやると、目を閉じて大人しくされるがままになっている。弱ると素直になるらしい。このまま看病係になってイイとこどりしてやろうと銀時は笑った。

よろずや、だなんて。
銀時が、欲しいものリストにあったわけだ。「たばこ」と「まよ」と同じ類いで、なくてはならないもの、くらい、自分は必要とされている。嬉しかった。

「そうだ土方、“あと”って何だ?」
「…あー、それ…寝ぼけてた」
「目ぇそらすな、なに?気になるだろ、いいじゃねぇか教えろって」
「いやだ」
「これ、取りあげるぜ」

二人の間に丸まっていた白い着流しを引っ張ると、子供がだだをこねるように引っ張りかえす。これにくるまっていたのか、何なのかしらないが(何にしたって可愛いのだけれど)、リストに入るべき程度には使っていただいているらしい。

「土方、あと」
「……」
「なんだよ」
「…消えたから」

ほてった顔で、ぽつりとつぶやく。

「なんの」
「ここの」

今度は銀時が黙った。ここ、と指さしているのは鎖骨のあたり。

いつも決まって、銀時が吸い付いて鬱血痕をつける場所だった。

「…あのなあ」

あまり可愛いことを言ってくれるな、と土方の首筋を軽く唇でなぞって、ため息をつく。包帯からのぞいていた白い肌に仕返しのように噛みついた。
怪我人を抱くのは気が引ける。生殺しにしやがって、罪な奴!

「治ったら覚えてろよ」
「はい忘れた」
「土方お前ほんとは元気だろ、あれだろ、銀さんに会いたかっただけだろ」
「いーえ、吐きそう」
「うそつけ、顔笑ってんぞ」

そういう銀時の顔だって、綻んでいるのだ。のびてきた土方の腕を首に回してやって、腕とは対照的に暑い暑いと文句を垂れる土方をゆっくりと抱き上げた。
土方の作るリストには、どんなリストにだって、必ず入る自信がある。



「これだけは旦那に渡せないよな、本気で副長のこと嫁がせるよ絶対…ミントンしとこ」

○ぎんときにぎゅうぎゅうしてもらう







夏がやってくるこの季節に暑苦しいお話失礼いたしましたっ(汗

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