お話3

□坂田家オムニバス!!
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*穴あき新聞

なーに、と銀時の顔が寄せられて、土方はふいっと反対を向く。

珍しく早起きをしていた銀時が、ソファで新聞を広げていた。琴はまだ寝ているらしい。
昨晩やっと目当ての攘夷派が動き、大きな捕物があった。久々に仕事から解放された土方を、銀時は「朝帰りだ、朝帰りだ」という言葉とは裏腹に優しい笑顔で迎えた。

号外だってよ、と言う銀時に興味がわいて、土方は隣に座りその新聞をのぞきこむ。新聞を両手で広げていた銀時が、土方を抱きこむようにして腕を回した。新聞と銀時の間で、土方は大人しくしている。

「真選組がお手柄だってよ、昨日のだろ?仕事早ぇなァ」
「テロの予告とかニュースになってたからな」
「残念ながら副長さんの写真がねぇんだわ、スクラップしようと思ったのに」
「そりゃよかった」
「ま、実物がここにいるからな」

おかえり、俺の奥さん。

こめかみに唇を寄せられ、かああ、と土方が耳まで赤くなった。何かを言おうとして、口を閉じる。それを繰り返す。

「なーに」

銀時に抱かれたのは、ずいぶん前のことだ。琴が合宿だなんだと新八の道場に泊まりにいったその夜、これでもかというくらいに。
普段は三人川の字で寝ているので、いくら琴が熟睡していようが銀時も手を出してこなかった。そうやって溜めこんでいる分、たまにくる二人の時間にはめを外すのだろうが。

空気が、甘い。
つまるところ、土方は、銀時に抱かれたがっていた。

「んだよその顔、ちゅーしてちゅーしてーって感じの」
「してねぇ」
「あらー?どうだか」
「してねえ!」
「はいはい」

母上ー?と声が聞こえた。琴が寝室から出てきて、土方を見つけるとその眠そうな目がぱちっと開く。その様子を背伸びをするように新聞の上から見ていた土方が微笑む。

「母上!おかえりなさい!」
「ただいま」
「昨日ね、ぱっちゃんに貰ったの」

ぱっちゃんとは新八のことだ。彼も可愛い妹ができたといって頼もしいお兄さんになろうと頑張っているらしい。
新聞の上から土方に手渡されたのは、赤いかんざしだった。お妙のおさがりか、近藤あたりが貢いだものが回り回って琴にまでやってきたのか、どちらにせよ、気に入っているようだ。

「よかったな、…顔洗ってきな」

返事をして、琴がこちらに背を向けた瞬間、銀時の顔が息のかかるところまで近づけられていた。
触れるだけだと思っていたものが、ちゃっかり口内をまさぐられる。

「母上、かんざし、つけてー」

静かに、しかしさらに深く口づけられて、土方の手が震える。新聞のおかげで琴からは見えない。
ぴり、と新聞を破って突き出たかんざしを洗面所からかえってきた琴が面白がって引っ張った。
仕上げと言わんばかりにべろりと舌で唇を拭われて、土方は肩で息をしながら頭突きを食らわせた。

「母上、父上のおでこが赤くなってるよ、ぼーりょくてきな女の人になっちゃだめだってぱっちゃんが言ってた」

穴の開いたところから琴がのぞいていた。

「いててて…ほらほら、琴の言う通りだよお母さん」
「…う、るさい…」

膝に頭をうずめた土方が力なく抗議する。

「琴、おとーさんがいじめる…」
「あーっ父上!母上をいじめたの!」
「いっいやいやいや!そんなつもりじゃねぇ、ことも、ねぇ、かな…?」
「琴がやっつけてやるー!」

朝早くから小さなおいかけっこが繰り広げられる。下のお登勢さんに怒られるかなぁと、二人を眺めながら土方はのんびりと思った。

「おかーさん」

軽々と琴から逃げる銀時が顔を上げた土方と額どうしをくっつける。目が、土方をとらえて離さない。

――今度、イヤってほど愛してやっからよ。

低い声でそうささやき、ニッと笑った銀時に、土方はへなへなとソファから落ちてうずくまる。

「うぅ…琴ぉ…」
「母上!」

あちょー!という琴の必殺技と、やられたあ!という銀時の声を、土方は目を閉じて聞いていた。自然と口が、緩むものである。





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