お話3

□坂田家オムニバス!!
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*母の英才教育


さて問題です。
目の前にはダメなことがあります。一体どこでしょうか。

夕方、銀時が久々の仕事から帰ると、土方と琴がソファの上に立って居間を見おろしていた。土方のクイズに琴はうきうきとあたりを見渡す。土方が制服姿であることから、見回りついでに家に寄ったとうかがえる。

「琴、俺は目の前っつったの。すぐそこ」
「えーっと、父上のお着物?」
「そーです、なにがダメですか」
「しゅみ!」
「え、いやボケとしてはいいんだけど…まさかそれ、」
「って、父上が言ってねって言ってた」

土方の氷のような視線が、居間に入ってきた銀時に突き刺さる。思わず後ずさりをした銀時だが、

「銀時さん」

と普段は恥ずかしがって言わないくせに名前で銀時を呼んだ。それも薄い笑みを浮かべて。さすがは鬼の副長、悪者を成敗するのには慣れていらっしゃる。

「じゃあお琴さん、父上のお着物は一万点中何点でしょうか」
「まん?」
「いちばん知ってる数字言ってみな」
「えとね、三」
「ほう、一万点中三点とはなかなか厳しいご意見」

琴の一番よく知る数字は、きっと三人家族、だとか三名様でよろしいでしょうか、の三だろうと銀時は思う。小さな子供が言う数字だ、まだ知っている数字は小さい。それに一万点中、と言うのだから、土方は相当怒っているのかもしれない。

ソファの前にある机から床にかけて、だらっと落ちている銀時の着流し。洗濯機の上に置こうと思っていながら仕事までの時間がなく(寝坊したため)そのままほったらかしていたものだ。土方はそれを指さして琴に言う。

「いいか、こういう男はな、ろくな男じゃねぇからな」
「父上はダメなの?」
「そうだ、ほらここには空のパックだろ、ジャンプだろ、あーもう」

ジャンプの隣には、甘味を食べたあとのスプーンが置いてある。

「ダメよ父上ー」
「ごめんごめん、久しぶりの仕事でテンションあがっててさァ」
「琴、ごめんを二回続けて言う男とは付き合うな」
「じゃあ父上のお嫁さんにはなれないのー?」
「それはだめだっ!却下!俺が許さねぇ!」
「えーひでぇよお母さん」
「うるさい」

ったく、脱いだら脱ぎっぱなし、出したら出しっぱなし。どうなってやがんだバカ天パ。

ぶつぶつと呟きながら銀時の着流しをたたむ土方。どうせ今から洗濯機で洗うのに、几帳面にたたんでいる。着流しの下からパンツも出てきて、土方はため息をついた。

よく見るその光景が、ただの日常的な光景が、なぜか銀時はどうしようもなく好きだった。

「琴、スプーン台所」
「じゃあ父上はいちご牛乳?」
「いい、触らせんな」

母上ぜったい怒ってるよ、と琴が銀時にひそひそ声で話す。しかしいくら声を落とそうが、この距離では土方に聞こえるのである。

「なぁ琴、」
「うん?」
「父上のお嫁さんになっちゃいけねぇのは」
「うん」

銀時の着流しとパンツを持って洗濯機に向かう土方が振り向く。笑顔が綺麗だった。

「ヨメの仕事が増えるからだ、わかるな」

あぁ好きだなァ、と銀時は笑う。

「うん!」
「返事はハイな」
「ハイ!」
「よろしい」
「琴、ちょっとお父さんのほう来なさい」
「ハーイ」

ここらで一つ、男がどういうものかを教えなくてはならない。父上のお嫁さんになるの、は、もう少し味わっていたいものだ。
声をひそめて琴に種明かしをする。

「実はな、出しっぱなしにしてんのは、わざとなんだ」
「えー母上に怒られるよ?」
「だーかーら、お嫁さんに怒られるのは、結構楽しいってこともあんだよ、世の中の旦那はな、特に俺は」
「…ふうん、大変だね」
「かーッ!やっぱわかんねぇかー」

琴はそれでいいよ、と頭を撫でてやる。先日新八からもらったらしい赤いかんざしが黒い髪の毛に映えていた。

「あんまり訳のわかんねぇ教育すんじゃねぇぞ、おとーさん」
「うん」
「返事はハイっつってんだろうが」
「はーい、…琴、こういうこと」
「なるほどー」
「あーお前はマネすんな、よいこはマネしないでねってやつだ」
「はーい」

ししし、と二人して笑う姿を見て、土方が仲間に入れてくれと言わんばかりに銀時の袖を引っ張る。銀時はその腰を抱き寄せ、琴は自分のかんざしを土方の頭に乗せて、似合うねぇおヨメさん、と笑った。





→終点、大黒柱の持ち物
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