お話3

□正義の好き嫌い
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縁側に座っている土方は、串に色々ささっている一番上の、たまねぎをかじっていた。ハガキを見せながら銀時が近づくと、寄ってスペースをつくる。ある程度は歓迎されている、らしい。

「やっぱり、捨てねぇか」
「あれ、想定内?」
「それ見たら絶対来るだろうと思って」

まんまと引っかかりやがった、ばーか。
嬉しそうに笑った。いたずらが成功したような、子供っぽいその笑顔。それを見て銀時がキスをしようとすれば、子供とは言えない鉄拳が飛んでくるのだけれど。
向こうで神楽の騒ぐ声が聞こえる。それを止めようと走る新八の姿も見えた。真選組の連中はよそ者をまったく気にしていないらしく、がやがやとうるさいが、それぞれ楽しんでいる。

時おり、副長、とちらほら隊士が土方のもとへやってきた。
今回の肉は美味いですよ、だの、マヨネーズ切れてませんか、だの、いくら鬼と言われようが、土方はやはり隊士たちにとって大切な存在らしい。
よかった、と銀時は素直につぶやいた。銀時が隣にいることに恥じらって「あっちいけ」と隊士を追い返す土方の頬が赤くて、どうしようもなく嬉しくなる。ちゃんと銀時に会釈してから去る隊士にも。

「…万事屋」
「ん?」
「ん、」
「はあ?ピーマン?食えって?」
「きらい」
「ったく、ガキかオメーは」

そういえばまだ串に手をつけていない。土方の皿には隊士たちが何本か持ってきた串があるが、それを横取りする気にもならない。取りにいくのも面倒なので、大人しく土方からもらったピーマンをかじる銀時だ。

あのわいわいとした賑やかな空気には、なかなか入る気分がしなかった。真選組の連中が嫌いではないのだが、やはり土方という存在がいなければよそ者なわけで。もともと、近づくはずのなかった相手だ。この組織とは少し距離を感じる。土方が副長になれば、なるほど。
やっぱり、「俺の」土方、にはならないのかなぁ、と銀時はため息をついた。

「万事屋」
「二人なんだから銀時って呼ぼうぜ」
「ぎんとき」
「…そう素直になられるとまた困るんだけどな…」
「ハイ」
「あぁ?…残飯処理のためかコノヤロー」

今度はたまねぎが差し出される。本当に嫌いなのか?先ほど食べていたはずだが。
首をかしげながら、しかし万事屋の食糧難のため腹は減っているのでありがたく受けとる。

「もっかい」
「…あ?」

こんがり焼けた肉が、差し出される。

「おまえ…」
「…ンだよ、食えよ」

銀時は自分の頬がゆるんでいるのがわかった。

「なァ、もしかして銀さんに気ィ遣ってる?」
「なっ…何でテメェに」
「肉なんか嫌いなわけねぇだろ、オメーさっきも食ってたし」

でしょ、と土方をのぞきこむと逃げるように顔をそむける。聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でつぶやいた。

「…お前、屯所、きらいか…?」
「…なんで」
「なんか、いつもと違うだろ、全然、食わねぇし」

銀時は困ったように笑って頭をがしがしと掻いた。色恋には鈍感なように見えるが、どこか鋭い。遠く離れたように思えば、すぐ近くに寄ってくる。
たまらなくなって、唇を寄せても、嫌がらなかった。

「…あーあ、絶対見られた」
「抵抗しねぇのが悪い」
「したらしたで喜ぶだろお前」
「よくおわかりで」

串を皿において、銀時はくしゃくしゃと目の前の黒髪をかきまぜた。肉くさい手で触るなと怒られるが、構わずに続けて、額どうしをくっつける。

「ここが嫌いなわけじゃねぇよ、オメーを独り占めできねぇのが面白くねぇだけ」
「はあ?独り占めって…まぁ、そりゃ…そうだ、けど」
「照れちゃってー可愛いなァ」
「あァ!?」
「怒んなって」

俺だって相当恥ずかしいんだよ、と銀時はごまかすように笑う。恋人に気を遣わせて、子供のような理由でいつもと違う空気をまとってしまう。まったく情けない彼氏だ、と。
銀時の腕から抜け出した土方は、照れくさそうに片膝を立てて、なにもついていない串をくわえてゆらゆらと揺らしている。頬が赤かった。

「…べつに、独り占めしてもらう気はねぇけど」
「…うん」
「お前がここに来てから、俺、…マトモにしゃべってんのお前しかいねぇ、し」

ちらと銀時を見た土方と目が合って、どくりと心臓が鳴る。
そうか、俺の、に、なってくれているのか。あぁ幸せだ、と銀時はほうっとため息をつく。

「…あぁ、そうだな」
「わかったら、何でもいいから、なんか取ってくれば」
「何がいい?」
「…俺は全部嫌いだから、お前が食え」
「わかったよ」

ありがとな、と素直に言えば不器用な彼はそっぽを向いて黙りこむ。もう一度頭を撫でてやってから、銀時はやっと、屯所の人間たちが集まるところへ真っ向から近づいていった。
もちろん、土方はお前らのモンとは限らねぇからな、と釘をさしてまわるのである。

「…とうもろこし、食いてぇな」

ぽつりとつぶやいたその言葉だって、けして聞き逃しはしないのだ。
今度は俺が、とうもろこし嫌いになってやろう、と小さく笑って一歩踏み出した。
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