パラレル
□その一
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お前はトシと副長やっとけィなんて独特の喋り方をして松平のとっつぁん?だっけは軽く言ってくれた。
お前は俺とアイツの腐れ縁を知ってて言っているのかと詰め寄りたくなってしまう。いけない、相手は何とか総司令官みたいな凄い偉い人なのに。せっかく手に入れた職業をくだらないことで手放すつもりは毛頭ないので心の中で叫んだだけにしておいた。
「うし、今日から私もチンピラ警察アル!」
「これなら毎日充実出来ていい侍になれそうです!」
新八も神楽も、なんだかやる気に満ちている。
俺は副長様だよ、お前らただの見習いでしょう、何をそんなに障子の張替えでみなぎっているのですか。新八なんかやっと本来の目的思い出したみたいだし。チンピラになって侍道が学べるのか。
「おう万事屋!…じゃなくて坂田副長か?」
「いいよ万事屋で」
「早速仕事についてなんだが…」
制服に身を包んだ俺を、似合うじゃないかと痛いくらいにバシバシ叩いて近藤は局長室へ入っていく。
副長と言えば最前線で戦って血まみれになって、…そういうイメージだった。少なくとも今までの土方からは。
だが実際には書類整理や幕臣との会議の方に忙しいらしい。もちろんテロが起これば先陣を切って戦うのだが、剣も政治も両方出来るのが副長というものだと近藤は言った。
まさに文武両道、政治をメインに活動する局長とも剣に集中する隊士とも違う。
それを土方は一人でやって来た。あれはさすがに働き過ぎなんだと近藤は笑っていた。
「トシの野郎、そのうちワーカホリックになるんじゃねぇかって心配してんだ。確かにあの難しい書類扱えるのもトシだけだったからな、だから万事屋にはそういうところでも副長になって欲しかったんだ。もちろんかなりの戦力にもなるわけだから、こっちとしては有り難い」
副長さんねぇ。あの細っこい土方がそこまでタフだとは思わなかった。
「近藤さん、これハンコ…」
ちょうど局長室にやって来た土方が俺を見てぽかんとした。
どう?意外にマッチしてるでしょう、制服も、局長室で大人しく正座しているのも。ホラお口が開いて子供みたいな表情になってるよ、本当は器用な土方副長よォ。
「うわーマジで隊士になりやがった…」
「どうも、副長さん」
「わりと型にはまってるんじゃねぇか、なぁトシ?」
「…まぁ…」
どうも納得いかないといった表情で土方が視線をそらした。あれ、見惚れちゃった?…それはさすがに思考が気持ち悪いか。
「じゃあ後はお前に任せるわ」
「ちょ、近藤さんっ」
「悪ィ今から会議あって」
「…こいつに仕事教えろってか?」
仲良くねぇのに、と頬を膨らませた土方に驚いた。
土方を見るときはいつも巡回しているときか、外で暴れ回っているときかだった。真撰組の中での彼なんて、これっぽっちも知らなかったのだ。あんな表情をする土方も、きっと無意識だろう、わずかに近藤に甘える仕種を見せる土方も全然知らない。
眉間にシワを寄せて刀を振り回しているたけが土方ではないのだ。
「ではご指導のほどよろしくお願いいたしまーす」
笑って敬礼した俺に、土方はまたいつもの不機嫌な顔にもどった。
そんなこんなで、俺は真撰組の副長さんになったわけだ。