パラレル

□その二
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最近は万事屋の旦那に乗っ取られている副長室にふと寄ってみると、土方さんが制服のまま布団に寝転んでいた。横を向いているせいで表情は見えないが、…まぁきっと嫌なことでもあったのだろう。

「土方さーん、どうしたんですかィ。珍しくご傷心中?」
「…うるさい」
「アララ、こりゃ本格的にダメみたいですねィ」

おもしろくなって布団に近づいて、つんつんと頭を足で突くと勢いよくパンチを食らった。本当に手加減など無しに等しいから、足が痺れていなくてよかった。

「そういや旦那は?」
「知るかよ」

頼むからほっといてと土方さん縮こまるが、俺が大人しく言うことを聞くとでも思っているのだろう。甘いな、土方。

旦那と喧嘩でもしたのだろうか。いやそれなら局長室に入り浸りそうだけど、特に動く様子もなく副長室でこの状態ときた。
自己解決に走りましたか。近藤さんには頼れない内容か、何となく想像出来るのが複雑だけど。
全く、ブルーになるのは結構だが土方さんが動かないのなら隊が回らない。あの人の仕事が増える原因は必ずと言っていいほど俺が関係しているのだけれど、土方さんは仕事が無くなったらきっと死んでしまう、などと本気で思うことがある。

いっぱい字を書いて、書類整理して、人斬って発散して、稀に怖くなって近藤さんに逃げる。それが土方さんの生活のサイクルだ。それを淡々と、時々俺と喧嘩をしたり山崎を殴ったりという色を添えて、あの人はちゃんと生きている。
仕方ない。そういう人なんだから、旦那も放っておけばいいのに。

「あ、沖田君」

結局反抗期の土方さんは何も話してはくれず(俺相手には無理か)仕事しろと追い出される始末だった。旦那になんか会いたくねぇや。山崎は俺見て逃げちまうし。

「旦那ァ土方さんと喧嘩ですかィ?にしても相当痛いとこ突かないとあそこまでにはなりやせんぜ」
「…そう?」
「山崎の野郎も、ありゃァかなり怒ってやすぜィ?」
「意味わかんないんだけどあのジミー」

山崎は土方さん一筋だから、その心意気には脱帽だけど俺には無理。生憎そんな純粋には出来上がっていないのだ。

「土方も土方で話のわかんねぇ奴だし」
「…旦那って、土方さんのことどういう風に解釈してるんですかィ」
「どうって…普通に鬼の副長さん?あーあとここ来てからは意外に綺麗な顔してるのと冷酷なのと近藤大好き…は前から知ってるか」

冷酷だと?あーあーこれだから新入りは嫌いなのだ。それもいきなり副長なんて位に就いてしまったのだから尚更。
きっと余計な口出しでもしたのだろう。旦那の言い方は、土方さんにとっちゃあ結構なダメージに与えるかもしれない。土方さん、かわいそうに。俺は知らないけど。

「…何を言ったのかは知りやせんけど」

俺達が武州を出て、ちょうど人を斬り始めた時だったか。
あの人は人殺しが出来る体質じゃなかった。そんなこと微塵も教えてくれなかったけど、でも外での仕事があった日には、必ず嘔吐していたのだ。それを俺が見て、後から問いただしたのだけれども。

最初の一ヶ月は血を見るのも浴びるのも、体が拒絶する。でもそれを越えたら、…段々体が順応するのだと。一種の薬のように。
それは俺も知らず知らずの内に当て嵌まっていった。嘔吐することはなくとも、一度知った血の味は忘れられなかった。

何が鬼だよ。土方さんのどこが冷酷?自分のしたことをあんなに悔やんで、抱えて、自己解決しようとする土方さんの何が?

「土方さんも好きで斬ってるわけじゃねぇんでさァ。それはアンタだってわかってんでしょう?」

そう心優しい俺が伝えた後の旦那の顔、大傑作。
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