パラレル

□その四
2ページ/3ページ

たいして量のないそれを吐いた土方は、さっきまでの険しい表情はどこへやら、何事もなかったようにすやすやと寝ている。切り替えが上手なのか、いやそれもそれで恐ろしいのだけど。
でも大人しく車に揺られる土方を見ていると怖いとかいう思いより…心配?

「何アホ面して見詰めてんですかィ、屯所着きやしたけど」
「あ…どーもご苦労様でした」
「俺は旦那の足かィ」
「いやいや安全運転でしたよー」

沖田の手がとても痛々しい。
お偉いさんに絡まれる土方を見ている時の彼は、見たこともないような怖い顔をしていた。歯を食いしばっているような、今にも斬りかかりそうな、いかにも隊長さんらしい顔。
たしかに驚いた。沖田もそうだが、土方のあんな一面は初めてだったから。

でも、真撰組って、あそこまで幕府に頭下げる必要があるのか?あれじゃあただのパシリどころか―お遊び道具、みたいな。
考えるのはよそう、俺の手だって沖田みたいにしたくない。もう俺は、お人よしな万事屋銀ちゃんではなくて非情な副長さんだ。なんの情けもなく土方を副長室に運ぶこと、副長さんのお仕事その一。

「…旦那」

非情であるべき隊長さんは、いつの間にか心優しくなってしまっている。だってその傷、土方のためでしょう?

「…土方さん、大丈夫ですかねィ」
「おーおー珍しいお言葉。普段あれだけ」
「俺は真面目に聞いてるんでさァ。…ああいうのを見せつけられたのは久しぶりなんで。俺の知らねぇとこで、あの人何やってんだろうかと」

土方の行動を全部把握するおつもりで?無理無理、あいつはお前らの知らないところで元気に動き回ってるよ、きっと。
俺にだってそぶり一つも見せてくれないのだから。…あぁ俺には話してくれる訳ないか。ただの非情な副長さんを目指そうとしているのだから。

「何も言わねぇんだ、あの人」
「…知ってるよ」
「急にどっかに行っちまいそうなんですよ」
「そう?」
「俺の知らねぇこと全部持って遠くへ行きそうで」
「沖田君らしくないな」

沖田らしい?自分の口から滑り落ちたけど、らしいってなんなんだ。副長の座を狙うのが沖田君?土方をサディスティックな目で見るのが沖田君?
違う、自分のよく知る土方がお偉いさんにとられるのが大嫌いな、駄々をこねる餓鬼。自分では何も出来ずに手を握りしめて、結局自身を傷つける奴。
それが沖田。俺には到底理解出来ないような、強い強い隊長さんだ。

「…でしょうねィ。自分でも気持ち悪ィや。なんであんな土方の野郎のために」
「それでいいんじゃねぇの。らしくねぇお前も沖田だろ。もう十分ドエスだよ十分うぜーよ」
「旦那ァ時々土方さんみたいなこと言いやすね。…あの人のことがお好きで?」
「…は…?」

急に何を言いやがる。土方がお好き?ふざけんな、あんな野郎…あんなっていうほど嫌な奴じゃなかったか。それでもいけ好かない野郎に変わりはない。

「冗談でさァ旦那、何真剣な顔してんですかィ気持ち悪っ」
「なんかお前も時々土方に似てるよねぇ…」

その傷口とか、そっくり。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ