パラレル

□その五
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旦那が言ったことは正しかった。
でもきっとあの人は、副長の思いなんて知らないんだろう。

「拗ねるなよトシ、万事屋の意見だってわからるだろ」
「…拗ねてねぇし」

拗ねてるんじゃないんですよ、落ち込んでるんです。
薄々わかっていたことをずけずけと言われて、副長がかわいそうだ。一番言われたくないこと、それもちゃんと理解していることなのに。
局長とわかれ自室に引っ込んだ副長を覗いてみようと思う。あの人の考えることは、きっと俺にしかわからないだろう。と言うより、賛成派は俺くらい…?伊達に副長の狗をやっている訳ではないのだ、今回くらいは本領発揮といかないと。監察の名が廃るってモンだ。

「副長、大丈夫ですか?」
「…むかつく」
「旦那ですか、それとも俺ですか」
「どっちも」

アララ、こりゃあ局長の言う「拗ねる」という方が正しいかもしれない。ぶーぶー足をばたつかせて(いや本当実際にやって欲しいですけど)不平を言う副長は何とも可愛らしい。
副長の理想は誰なのだろうか。由緒正しい侍を目指すなら、旦那の方がそれらしいけれど。でも旦那だって今現在はちゃらんぽらんな奴じゃないか、と俺は思うのだ。アンタの理想は何も揺るがないから、旦那の言葉に左右されちゃいけないよと。

不安にならなくても、副長は立派な侍だ。それだけは、俺は譲れない。誰が何と言おうとも、副長が裏でどんなことをしようとも、隊士を何人粛清しようとも、無茶な戦い方をしようとも、俺は副長の狗だ。それは変わらない。
だって全部真撰組のためなんでしょう?自分の大将のためなんでしょう?そのためにありとあらゆることをして必死になるのは、カッコイイじゃないか。侍じゃないか。


俺はアンタを信じるよ。
…って、一回どや顔で言ってみたいなァ本当。

「ザキィ」
「どうしましたか」

こういう時の副長は、急に不安になって俺に甘える。有り難いことだ。局長に逃げられる前に解決しないと。

「…どうしよう」
「気にしなくてもいいじゃないですか?旦那の言うことは正しいかもしれないですけど、俺達のスタンスを変える必要は」
「でもそんなんじゃ…万事屋みたいになれない」

もしかして副長は、旦那に憧れてるんですか…?

「万事屋は白夜叉なんだって。英雄なんだって。よく知らねぇけど…アイツはちゃんと武士道持ってる」

無理矢理作ったのじゃなくて、自然と下りてきた自分の在り方。真撰組にはないものだ。でも侍にはある。

「武士道なんて俺達にはいらねぇって思ってた。もともと野蛮な猿だし局中法度で十分だろうってな。模範的な侍にはなれねぇってわかってたのに、当の侍野郎のは俺の知ってる士道じゃなかった。…なんで?」
「…それは…」
「わかんねぇし。だって俺はお侍さんじゃねぇから」

いいなァお侍さんは、と副長が伸びをしてそのまま寝転がった。

残念ながら、侍から程遠い地味な監察は、何も言えないんです。

「副長!」
「わっ…何、急におっきい声出すなバカ」

でも、言えることはあるんだ。

「俺はアンタが侍じゃなくても幕府の狗でもなんだっていいんです。それでも俺はっ…俺は、副長を信じてます」

あーあ、言っちゃった。クッサイ台詞だよ。

ぽかんとする副長から逃げるように部屋から出ると、旦那とバッタリ出くわした。

「ジミー君かっこいーひゅーひゅー!」
「…聞いてたんですか」
「いやなーお宅の土方君、今回のお仕事には多分反対なんだろ?途中で敵前逃亡やっぱり切腹とか言われちゃ困るからよォ」

今回だけ出張で俺と組まねぇ?と旦那が笑った。
アレ、俺副長しか信じないって…そっちじゃないんですけど。
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