パラレル
□その七
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近藤さんにはお世話になりますなんていい顔をして、客室に引っ込んだ途端、例の息子さんは俺を見てニヤリと笑った。もういいって、そういうの。そんなんじゃ何も堪えない。
「じゃあトシ、江戸は任せたぞ」
「土方さん頑張って下せェ、…イロイロと」
「イロイロ余計だろ早く行けバカ」
しくじんなよ、と笑った意味を近藤さんは知らないのだろう。それが何より安心する。
さぁ、気長に準備を始めようではないか。
何でと万事屋に言われたら正直に答えてやろう、体の限界です、と。別に限界なんてないけれど、心が疲れるとか、そういうことは言い訳にしたくない。あくまで仕事に支障をきたすから、…息子さんは必要ないから。
だから消す。いつだって俺のスタンスは揺るがない。揺るがせるものか、あんなくだらない野郎に。
先日ふと総悟にこぼしたら、ウキウキと相談に乗ってくれた。相変わらず怖い奴だが、それも今回は頼もしい。人を斬るという行為に、あいつはもはやなんの抵抗もない。
「悪いよねぇ、父上が忙しくって」
「いえ、仕事ですので」
「ククッやっぱり君は頼もしい」
言ったことの半分は嘘だろうがこのクソ餓鬼。総悟の方がまだ可愛いげがあっていい。あいつは包み隠さず抱かせろと言うだろう。
「でもここから出してくれないって酷くないかなァ」
「俺がついてますし、…それでいいだろうが」
「あー土方はやっぱり敬語とれた方が可愛いげがあっていいね」
…金輪際可愛いげという単語は使わない、と俺は心に決めた。
この踏ん反り返っている息子様を消すためにはどうすればいいか、計画を立てるのは楽しくて仕方がない。その計画の第一段階、いやただの実験だけど、万事屋を使わせてもらった。あの男があそこまでなっていたから、使えないことはない。
少しそぶりを見せるとアホな男はすぐに食いつく、そんなことはもう昔から知っている。認めたくはないが、俺は男にうけるらしい。
これを使わずして何をする。使えるものは多少犠牲にしたって使うべきだ。それが俺一人の犠牲で済むなら尚更。犠牲なんて大層な言葉は似合わないけれど、俺が決めたことだ。あの息子のお蔭様で色んな奴と繋がりが出来たし、意見も通った。
色仕掛けで斬ってやる。俺に出来るのはそれだ。
「たださァ畳きったないよなーやっぱり貧乏なの?」
「すいません、元々そういうの気にしない奴らばっかなんで」
「アハハ、野蛮な猿ってヤツか」
血を誰が綺麗だと言う?アンタのために裏返してやったんだよ、感謝しろ。
息子の父上様が、急に寝返ったのだ。数少ない真撰組の味方だった幕臣だったというのに、テロ対策は自分達でやろうなんて言い出したのだ。
なぜかは知らない。もしかしたら俺みたいな奴がついたのかもしれない。でもそんなことはどうだっていい。必要なくなった、それだけだ。だから一家丸ごとあの世行きって訳だ。向こうは総悟に任せる。こっちは俺が。真撰組を見くびるなコノヤロー。
「ね、わかってんでしょう?」
「…何が」
「つれないなァこっちおいで」
今日は前夜祭といこうか。
アンタに少しだけ、時間を残してやろう。