パラレル

□その七
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うるさい。うるさいのだ。自分でも嫌になるほど意識してしまうから腹が立つ。

「うるせぇんだよ毎晩毎晩コノヤロォォォ!!」

とは叫べない。息子さんの客室はすぐ隣だからだ。そんなもの、叫んだ途端土方に八つ裂きにされる。彼は聞こえていないとでも思っているのだろうか、いや俺の耳はバカみたいにいいのだ。あと副長室での領域が客室寄り。
とはいえ、好奇心というものもまだ消滅していない。これだけ騒音に苦しんでいるのだから、少しくらい。
少しくらい、覗いたって…罰は当たらないはずだ。別に男同士のソレには興味はないけれど、土方が気になる。普段あそこまでストイックな彼が、一体どうなっているのか。

「だからっ…ちゃんと聞けッ…」

おーおーやってらァ。
何、と返した息子さんには余裕がある。

「殺せって言ってんだよっ…もうやだからっ…!」

しゅ、修羅場か…!
だが土方がそんな弱音を吐くとも思えない。ましてや殺せだと?全くもってありえないことだ。

そこからは、急展開過ぎてよく覚えていない。土方が指差した脇差を冗談混じりに手に取った息子は、…次の瞬間には首から血を噴き出して倒れていた。

「土方!?」
「げ、のぞき見…」
「じゃねぇよ!オイそれ…」
「コレ?…勃てながら死んでらァ器用な奴っククッ」
「…何…で」

いい加減体がもたねぇの、と笑った土方の目は、今にも泣き出しそうだった。着ていた着流しを肩にかけてやると、驚いた表情をするがすぐにまた仏頂面にもどる。こちらも器用な奴だった。悲しいくらいに。

何も言えずに突っ立っていると、土方が白い手袋をはめて脇差を取り上げた。そしてそれを俺に差し出す。もちろんもう片方の手袋も一緒に。

「…斬れ。どこでもいいから」
「…は?」
「俺も怪我しないと正当防衛にならないから。一応血迷って殺されかけたってことにするから」
「斬れってそんな簡単に…」

脇差を持ったまま戸惑う俺を見て、焦れたように土方がため息をつく。

わからない。コイツが何をしたいのかがわからなかった。そこまでして真撰組を護る必要がある?だって、こんなにも簡単に斬ってしまうのだ。体がもたないから、そんな訳がない。土方が強いのは誰だって知っている。
もたないのは、心の方でしょう?そう言いたかったけれど、土方の真っすぐな目を見たら言えない。彼にとってはそれが正義なのだ。近藤を護るのが、生きていることと同じこと。

ぐいと引っ張られて、顔が近くにあって、気がついたら口内を舌があさっている。いわゆる、チューってヤツだ。もう何が何だかわからない!

「…んっ!?」

異物を感じて、思わず顔を離した。口から出てきたのは、白いカプセル。

「あのバカ、がっつくわりに鈍いんだよなァ」

死体切ったら、これが出てくるんだぜ?
そう言って取り出したのは、小さいビニール袋に入った先程と同じカプセルだった。何やら怪しい薬だが、きっと違法のものだろう。

「それ…を、飲んでたって…」
「いーや?俺が飲ませた。お前にやったみたいにな、夢中になってもらえなくて残念」
「…なんだって?」
「だから、この薬は山崎がどっかから拾ってきたの。もうこの際コイツのもんでいいの。動かぬ証拠はもうつくったし」

じゃないと俺、腹切モンだろ?それまで、土方は自分を斬るのはおいておきたいんだって。
でも、今まで頑張ってきたんだから、それくらいのわがままは聞いてあげるべきなんだろう。でも、彼を斬るのはゴメンだ。役に立たない副長で申し訳ない。
そい言ったら、また泣きそうな顔になって俺の手をとった。

「…俺のこと嫌いなんだろ、…ごめんな」

土方が小さく呟いて、脇差は俺の手と一緒に土方の腹へすい込まれていった。ぽろりと目から落ちたそれも、畳にすい込まれていった。
ガクンと力が抜けた土方は俺にしがみつく。もしや、本能的なものなのか。

咄嗟に臓器に刺さらないように手を動かしたけれど、コイツの心には確実に刺さっている。…俺に、取り除けるか?








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