パラレル

□その八
2ページ/3ページ

しくじっちまいました。

幕臣を消すことを、だそうだ。山崎は京について、沖田から例の恐ろしい土方の計画を教えられたらしい。彼曰く、それを「しくじった」と。
すなわち消せていないということか。逃げられたのか、斬り損なったのか。両方です、と山崎はうなだれる。土方と同様、意外にアチラもしぶとかったのか。まぁ愚かに逃げ回るのは悲しい人間の性、責める必要はないだろう。

「夜でしたし、隊長は顔を隠していたのでバレていないんですが…多分、浪士の仕業とでも思っているでしょう。でも息子の方は斬った訳だし…」

それでね、旦那。

人を一人斬った。それは中々に深刻なことなのではないだろうか。俺は見過ごしただけだ。でも、例外なく罪はのしかかる。

「監察方何人かで探してたんです、どこに逃げたのかって…まさか江戸まで来てないだろうとは思ってたんですが…昨夜、死体で見つかって」

何だか刑事ドラマを見ているような気持ちになった。死体で見つかってってお前、火サスじゃないんだから。三流ドラマもびっくりの泥沼じゃないか。火サスは決して三流ではないけれど。
どこで、と聞いたら、「万事屋銀ちゃんの前で」。

「…ハァ!?」
「丸腰で歩いていたところを浪士に斬られたみたいです。逃げてすぐ江戸行きの船にのってそのまま…偶然…ですよねぇ?」

こんな偶然ってあるのか。俺の家の前で?いや、あそこはもうお登勢のなんだろうけど、いや元々そうなんだけど。でもなんでわざわざ歌舞伎町まで行く必要がある?パニックになっていたというならそれまでだが、うーんやっぱり人間はよくわからない。

「違う、多分浪士達がオッサン斬った後に運んだんだよ」

入り口に、土方がもたれ掛かりながら立っている。相変わらずじっとしていられない子だ。

「…土方君、だから寝てろって」
「お前、元攘夷派なんだろ。恨みみたいなことがあってもおかしくねぇ。昔は仲間だったのにってな」
「そうそれです副長!実は一緒にコレが落ちていて…」

山崎が取り出したのは、折れた木刀の一部―ここに入隊したときに神楽と面白がってバキバキやったのだが、わざわざ捨てたものを拾っていたのか、暇な奴らなこって。
木刀の破片にはちゃっかりと洞爺湖の洞の文字が半分入っていた。俺がやったことだとしたいのか、姑息な奴らめ、後で坂田副長様が直々に成敗してやろう。お前らはもう仲間じゃない、悪いが俺は幕府側に立たせてもらうとする。

「あーあ…総悟のバカ」
「どうします…?このままじゃ旦那が」
「俺ぇ?やったの土方じゃん」
「人のプライベート勝手に見て黙ってたのはどっちだ」
「…プライベート、ねぇ」

俺のプライベート、どうしてくれんの本当。

それからすぐに近藤達は帰ってきた。珍しく俯く沖田の頭を土方がペシと叩き、何も知らない近藤はまた喧嘩かと笑っていた。
ペシじゃ済まないのは俺だった。幕臣が殺されて、幕府は早速いけ好かない真撰組に目をつけ始めた。正しくは、俺に。

「どうなのだ、元攘夷浪士の君はどう思うのかね」

値踏みをするように見られて、あぁそうですねぇと頭をかく。ほぼ毎日のように登城し、取締りのようなことをされている。土方は何もしてくれない。当たり前か、近藤に悟られないようにすることで精一杯だからな。

沖田は、ここ最近で随分大人しくなった。罪悪感にみまわれているのだろうか、人を殺さなかったことに罪悪感を持つだなんて、少し変な感じもするけれど。お前のせいで俺拷問受けてんだよ、早く自首しろコノヤロー。

「お宅のお偉さんがボサッとしてたんじゃないっすか」
「だから貴様がやったのではないかと言っておるのだ!あの薬物に手を出したと報告されていた方も…貴様が仕組んだのではないか」

ご明答、考えたのは土方だけどね。
俺を思うように扱えなかった幕府は、とうとう俺をブタ箱に放り込みやがった。殴るとか蹴るとか、いわゆる自白させる行為?土方みたいに体をどうこう掘られることはなかったけれど、多少なりとも予測していたことは身に降り懸かってきた。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ