パラレル

□その八.五
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両膝に、擦り傷。それも真っ赤。風呂から上がった着流し姿の沖田が、染みると言って痛がっていた。

「なにそれ」
「まぁちとやんちゃしちまいやして」
「…畳だろ」

抱いたのだろう、畳の上で。布団も敷かずに。

「あーあ、ばれちまった」
「それくらいわかるっつーの」

誰をと聞くと、頭をかいて「土方さんを」と言った。
一瞬頭が真っ白になった。沖田が土方を?どうして、という疑問より先に、腹が立った。土方に対して。
俺はどうなるの、頭をよぎってしまったことを認めたくなかった。土方は俺の恋人でも何でもない、と言うより、恋愛の対象ではないはずなのだ。男同士だし、性格も合わないし。好きだ嫌いだなど、考える必要はないはずなのに。
謝った方がいいですかィ、と沖田が言う。何で、と言いたかった。でも、その言葉は吐き出されることなく飲み込まれる。何も言えない俺を見て、彼は溜息をついた。

「土方さんはねィ、怖ェんでさァ」

結局俺を殺すことなんて出来ねぇ、生き続けろって言うんですぜ?それも責任しょいながら。全く怖ェお人でさァ。
怖い怖いと思ってたのに、抱いちまった。

その言葉を聞いた途端、頭より体が反応していた。
胸倉を掴まれた沖田は、やっぱりかとでもいいたげな表情で俺を見る。何だよその顔、俺は訳わかんないのに。

「酷ぇ顔。アンタねぇ、土方さんをどうしたいんでィ?いい加減にしなせぇよ」

好きなら好きと言やあいいのに、だと。どっちつかずは土方さんがかわいそうだと。
酷い顔、俺は今どんな顔をしていると言うのだ。土方をとられて不満げか、アイツにそんな感情を抱いた覚えはない。

「…旦那の話したら、顔真っ赤にしやがって。土方さんのくせに」

つまんねぇの、そう言った沖田は力いっぱい俺の手を振り払って廊下を歩いていった。
『好きなら好きと言やあいいのに』

俺は、土方が好き?

「…サボり、切腹しろ」
「沖田君としゃべってただけだろ、つかもう夜だし仕事終わりだし」

向こうからやって来た土方が軽く俺をつついた。全く、来て欲しくないときに限って現れる野郎だ。首筋に色濃く残る情事の跡も隠そうともしない。そんなことが一層俺を落ち込ませた。
いやちょっと待て、落ち込んでいるのか俺は。やっぱり沖田の言うとおりかもしれない。自分の気持ちにさえ気づけないなんて、また随分と情けなくなったものだ。

「沖田君とお楽しみだったようで」
「あー…総悟が何か物欲しそうだったから」
「それだけ…?」
「ハァ?何言ってんだお前、今更何もねぇっつーの」

物欲しそうだったから?だからおとなしく抱かれただと?沖田が昔からの仲間だというのは知っているが、それだけの関係で?

「だから、…とっくに慣れてんの。抵抗もねぇの。総悟はいいヤツだし」
「ふざけんな」
「…何怒ってんだよ」
「ふざけんなよ、幕府に体売りやがったと思えば今度は沖田だ?何なのお前、ただの狗じゃねぇか」

知ってる、と土方が目を逸らす。

「狗って、それもはや隊士の狗じゃねぇの。沖田の狗?もしかしたら近藤」

ガツ、と頬に鋭い痛みを感じた。気がつけば体は床の上にあって、土方の冷たい視線が俺を突き刺している。ぬる、と気持ちが悪い感覚がして口元を触ると、案の定赤黒い血が流れていた。

「………しね」

あんな風に、ぎゅってされたの、お前が初めてだったのに。

冷たい目はいつの間にか泣きそうになって、土方は去って行った。











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