パラレル

□その九
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「どうしたトシ?局長室にこもるなんて珍しいじゃねぇか」
「…万事屋にいじめられた」

そうかそうか、と言って近藤さんは笑った。だから総悟のそれとは違うんだって、アンタに言えるはずがないけれど。
殴ったのは悪かった。でも、万事屋が悪いんじゃないの?俺は狗になりたいんじゃない、近藤さんの役に立ちたいだけなのに。役に立っていないのか、いや立ち方を間違えたのか。今までしてきたのは、全部間違いなんですか坂田さん。

「…近藤さん」
「なんだ?」
「…俺、要る?」
「もちろん、何で?」

いや、要るなら結構。きっと、まだ間違っちゃいない。そりゃそうだ、間違ったら即刻総悟に斬られるから。アイツが刀じゃなくてバズーカを持っている間は大丈夫だ。

「万事屋と喧嘩なァ、トシは喧嘩ばっかだな」
「うん」
「トシさ、万事屋のこと好きか?」
「…知るか」

総悟と一緒にするなって。喧嘩相手が皆好きな奴とは限らないのだ。総悟は好きだ。殴り合いをしようが襲われようが、俺とアイツは仲が良い。
そうだ、どうして万事屋はあんなに怒っていたのかがよくわからない。別に誰と寝ようがどうでもいいでしょう、と俺は思うのだ。狗扱いするなら尚更、放っておいてくれたらいいのに――人を更生させるのはいいことかもしれないけれど。万事屋時代のお人よしがまた出て来たのだろうか。そんな出来た人間とは思えないが。

…まさか俺を好きだったり、なわけあるか。思い上がりもいい加減にしないと、何でもかんでも良いように捉えるのは近藤さんの仕事だ。

「好きだと思うんだけどなー」
「はぁ?」
「万事屋とトシって結構お似合いだぜ?似てるし」
「ふざけんな」
「まぁまぁそう怒んなよ、副長同士仲良くやってくれればそれでいいからな」

言われて、気がついた。

近藤さんは、隊士達の仲が良ければいいのだ。後は何だっていいのだ。真撰組の地位も名誉も、隊士達に比べれば小さいのだ。

真撰組が大きくなるにつれて、忘れていた。
一番大事なこと。
皆が毎日ちゃんと生きること。

「…ごめん」
「ん?何か悪いことしたのかトシ」
「…わかんないけど」
「じゃあ謝らなくていいだろ」

近藤さんが毎日ちゃんと生きるためにしたことは、悪いこと?

「…かっちゃん、俺今ちょっと傷心中かも」
「きゃートシがかっちゃんですってー?よし来い、存分にかっちゃんしてやるぞ!」

アンタが局長で、ホントよかったよ。





「あ、土方さん!」

しばらくして廊下に出ると、眼鏡とチャイナに呼び止められた。

「この度は銀さんがすいませんでした!ちゃんと謝るみたいですんで、許してあげて下さい!」
「アイツ絶対トシちゃんのこと好きアルよ、気をつけるヨロシ。あんまり相手にしちゃだめネ、ケツとられっぞ」

神楽ちゃん!?と窘めるけれど、今更怖いものなんて何もないから。

「銀さんじゃ、無理ですか…?」
「無理ならいいヨ、銀ちゃんをどん底に突き落としてやるだけネ」

いいな、と小さな見習い隊士達を見ながら思った。万事屋には味方がいっぱい、それも強い奴らばっかり。腹を割って話せるのだろうか、何て幸せな。

「…万事屋、俺のこと好きなのか?」
「いやここだけの話、どうもそうみたいなんですよ」
「銀ちゃんの趣味も相当ネ」

ひそひそと声を潜めた隊士達が、毎日仲良く生きていくためには、俺はどうすればいいのだろうか。
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