お話3

□未来像、紋付きを添えて 2
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足がしびれている。これはもう救いようがないくらいにしびれている。感覚がない。それなのに、松平の容赦ない説教はまだ続くらしく。土方は紋付き袴のまま正座をしてじっと耐えるのだ。

「総悟ォおめーさんは何か言うこたァねぇのか」
「…俺ァ二人の見合いが成功して欲しいばっかりに…庭に入っちまったのは反省してやす…でも、土方さんが心配で心配で…うぅ」
「…帰ってよし」
「ありがとうごぜェやす失礼しやーす」

要領のいい沖田はにっこりと笑って副長室から出ていった。地味な山崎はお呼びだしにさえかかっていない。
足どり軽やかな沖田は嬉しそうに、後はがんばってくだせェよ、と土方の肩を叩いた。もちろん土方の痺れた足を蹴るのも忘れずに。声にならない悲鳴をあげて畳に突っ伏すが、目の前の恐ろしい銃口は相変わらずこちらを向いている。

見合いはアレで終わったらしい。銀時の乱入により終了、最悪だ。
予想外の事態に放心状態になった土方の頭が整理されたときには、もうこの説教の最中であった。
あんな失態を犯したのだ、そりゃとっつぁんだって怒るわな。
もう全神経が足にむかっていて、土方の頭はぼーっとしてしまっている。隣で同じく正座をしている銀時も、やはり死んだ目をして、しかし手だけは土方の腰に伸びるという状態である。

「トシもおめーもうちょっと期待してたんだけどなァ」
「とっつぁん、さっきから何回も言ってっけどコイツが悪いの、俺はなんもしてねぇのに乱入してきたコイツが悪いの」
「なんで乱入したんだテメェは」
「だーかーら、土方とお見合いすんのは彼氏の俺だって言ってんでしょうが旦那として乱入すんのは当たり前だろ」
「とっつぁん、コイツ殺していいから許して」
「土方くん!?いやそりゃ俺が悪いのは知ってるけどさ、嫌な説教も二人で乗り切れば苦しさも半減っていうか」
「半減しねぇから撃っていいよとっつぁん」

さっきからずっとこの調子だ。そよ姫は着物のことを秘密にしておいてくれたらしいが、やはり銀時の乱入は問題だったらしい。見合い失敗、とまではいかないが、松平が怒るのも仕方がない。
ハァとため息をついた松平にびくりと二人の肩がはねあがる。

「…トシィ、なんでまたこんな変な男引っかけちまったんだ、将ちゃんもあんな命令出しちまうしよォ」
「変なとは失敬な!万事屋の社長だぞ俺ァ!」
「引っかけてねぇよ」
「トシ、俺ァ心配でならねェよお前の彼氏がこんなプー太郎で」
「んだとこの」
「万事屋は黙ってろお願いだから」
「…ハイ」

別に、色目を使って遊び半分で付き合っているわけではない。落とされたのだ、銀時に。女にも男にもモテるこの自分が、見事に落とされたのだ。
いくら見合いに乱入しようが、失態を犯そうが松平に楯突こうが、土方は銀時が好きなのだ。相手が松平でも、とやかく言われたくはない。

「男なら男でもっといいのがいんだろうよ」
「じゃあとっつぁんと付き合おうか?」
「ヘェおじさんの相手してくれんのか、嬉しいねェ」
「…テメェ土方に手ェ出したら殺すからなほんとに幕府全部敵になっても殺すからな」

一瞬大人しくなった銀時が再び牙をむいて、土方は黙って松平に微笑んだ。これだけ自分のことに必死になる人間は他にいないと、サングラス越しに合った目に、きっと伝わってくれるようにと願った。

「…あの命、取り消してもらわなくていいんだな?」
「そうだよわかりゃいいんだよ、始めっから俺と土方の仲を裂こうとか考えてるからだな、」
「あーそれは取り消してもらって」
「はぁ!?」
「お、いいのか?」

そんな命令なくったって万事屋がどうにかするだろ、とため息混じりに言うと、案の定口を大きく開けた銀時はボタボタと鼻血をたらし。
呆れたように肩をすくめた松平が銀時の足を蹴って出ていき、今回の騒動は幕を閉じた。
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