お話3

□未来像、紋付きを添えて 2
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あー長かった、と伸びをする銀時を一度殴って、土方は痺れて限界の足をゆっくりと崩して寝転がった。

「お疲れさま」
「お疲れさまじゃねぇし誰のせいで」
「俺のせい、ごめんな」

でもどうしても我慢できなくってさ、と困ったように笑う銀時を土方はもう一度殴ろうとしたが、げんこつは銀時の手のなかにおさまって、覆い被さってきた彼に身動きがとれなくなる。

「好きなタイプはどんな人ですか土方くん」
「は?」
「お見合いすんだよお見合い、質問に答えなさい」
「なんでお前としなきゃなんねぇんだよ、てかこんな状態でできっか、やるならちゃんと正座しやがれ」
「えー正座はもう勘弁」

ガツンと足を下から蹴ってやると本当に痛そうな顔をして、土方はくつくつと喉をならした。そうすると、鼻がくっつきそうなくらいに近くにいる銀時は嬉しそうに笑うから、赤くなってしまうのである。目の前で男前に笑うなと、一生言うつもりはないが、そう吠えたくなる。
銀時が笑うと同時に感じる息にさえ安心してしまうのは、おかしいのだろうか。でも、抱き着かれるにしても押し倒されるにしても、相手の鼓動がわかる距離で銀時を感じると、泣いてしまいそうになるのだ。

「土方は俺とお見合いしたくねぇの?銀さんの紋付き見たくねぇの?」
「べつに」
「ひっでーなァ」
「見合いはもうこりごり、お茶こぼれるし」
「お姫さんが優しくてよかったな」
「なんだその上から目線むかつく…笑うな」
「いやァ徳川か何か知らないけどさ、女の子一人のためにこんなに振り回されるとは思わなかったから」
「お前はそよ姫様にってより見合いって言葉に振り回されてたんだろうが」

そこまで見合いがしたいかと土方はため息をつくのだ。先日から見合い見合いとうるさい銀時に、さすがにうんざりしてきた。

「だってお見合いしたらそのままスムーズに結婚できるんだろ?」
「はあ?結婚?」
「いいよなー見合い、あー結婚してぇ、土方が嫁さんとかあーもう結婚してぇ」

本格的にのしかかってきた銀時の重さに土方は天パをぐいぐいと引っ張るが、銀時は気にもとめずに結婚後の生活についてぶつぶつとなにか呟いている。こちとら退院したばかりだというのに、重たくて仕方がない。
結婚なんて、と土方は鼻で笑う。土方は、銀時が自分にこれだけ執着してくれるのならそれで十分だと思っている。それで満足だ。

耳の中に入ってきた銀時の舌にびくりと身体が震える。年中盛りやがって、と舌打ちするが反撃はできない。
閉じた唇は当たり前のようにその舌で開けられて、ここでするつもりかと言う前に銀時のペースにのまれてしまう。

「…ました…いえ…です…」

口内をまさぐられて酸欠になった頭の片隅では、廊下の気配を感じとって、その会話を聞こうとしている。少女の声がするが、いよいよ銀時の手が袴の中に入ってきて、それどころではなくなる。

「やっべー…袴プレイじゃねぇかコレ、燃えるわ」

目が雄のものになり、胸元に手が入る。
これからやってくるであろう快楽を期待して、土方はぼんやりと銀時越しに天井を見た。

「…ッなっ…!?」
「ん?」
「いやなんも…っあ…!」
「ん」

山崎がいたのだ。天井に。
正確に言えば天井の板を外して上から覗いていた。銀時越しに目が合ってしまった。
しかもこの山崎、謝るどころか土方になにか伝えようとしている。必死に手話みたいなもので土方に訴えるが、全く意味がわからない。それより、自分に夢中になっている銀時が山崎に気がついてしまうと彼を殺しにかかりそうで恐ろしかった。
とりあえず喘ぎながら、山崎の指の方向をたどる。我ながら器用なことをすると土方は思ったが、なにせ山崎の顔がただ事ではないことを訴えていた。

指の先は、廊下。
嫌な予感がした。

「ちょ、銀時、待っ…あッ…!」
「はぁ?あ、焦らしてんのか、焦らしプレイか、さすが土方」
「違うから!いっ一瞬止まれ、いいから」
「無ー理」
「無理とかそんなんじゃねぇからっ…ひ、ぅ…!」

きっと廊下に誰かが来たのだ。山崎はそれを伝えようとしているのだ。こんなところを見られるのは、山崎は後で腹を切らせることにして、到底耐えられない。
いっそ銀時の股間でも蹴ってやろうかと土方が狙いを定めたその時、ドタドタと走る音が聞こえて。

「ここがトシちゃんの部屋アル!」

スパァン!といっそ気持ちがいいほどの音と一緒に副長室の障子が開いた。

「へぇ、ここがトシちゃんの…あ、トシちゃん、今日はどうもありがとうございました」

神楽に続き入ってきたそよ姫と目が合って、しかも頭まで下げられて、土方は銀時の下から大声を出すしか思いつかなかった。

「ザキ!」
「はいよっ!」
「ハァ!?ってぐえええ!」

天井から降りて銀時の首を絞めにかかった山崎を押し退けてそよ姫の前に座る。

「こっこちらこそありがとうございました」
「改めてお礼を言いたいとお願いしましたら、玄関先でちょうど神楽ちゃんとお会いしましたので、少し見学させて頂いておりまして。…あの、後ろの銀ちゃんさんは…?」
「え、と、今実践しておりますのがねっ寝床を襲われたときの対処といいますか、」
「そうでしたか、お邪魔してすみませんね」
「いっいえ全く!」

ふぅ、と息をついて後ろを見ると、覗いていたことがわかったのか今度は銀時が山崎を絞めている状態になっていて、土方は慌てて二人の間に入った。

「あー今いい感じに絞まったアルよトシちゃん!」
「てんめぇジミーの癖に…ジミーの癖に…!」
「万事屋!ザキが死ぬから!」

ようやく解放された山崎の背中をさすりながら銀時をチラリと見ると、ニタリとそれはそれは恐ろしい笑みを返してきた。どうやら途中で邪魔をされたことが相当気に食わなかったらしい。こんな気の立った銀時をそよ姫の前に置いてはおけない、と土方は神楽に声を落として頼んだ。

「…たぶん今道場で稽古やってるだろうから、そっち案内してくれるか」
「トシちゃんは銀ちゃんとヤってからくるアルか?」
「しーッ!テメェ姫様の前だぞバカ!」
「わかったわかった、この万事屋神楽に任せろヨ、もう邪魔はさせないネ、トシちゃんも首筋の痕には気を付けろヨ!」

じゃあな!銀ちゃん頑張れヨ!とそよ姫の手をとって走っていく神楽に土方は脱力した。全く恐ろしい。もうそよ姫に変なことを植えつけずに済むのなら神楽には何を言われてもいい、と本日何度目かわからないため息を大きく吐いた。
完全にぼろぼろにされた山崎も逃げていき、残ったのは先程より獰猛な気配をまとった銀時。

「なに、ジミーのこと見ながら抱かれてたってわけか土方くん」
「…ハイハイ」

少女なんかよりこちらの方がよっぽど楽だ、と土方はご機嫌をとるために銀時の唇にかぶりついた。この男とは、紋付き袴のようなご立派な未来は待っていないのだろうと、土方は再度押し倒されながらくすりと笑った。銀時の目には見合いより結婚より、目の前の乱れて品を失った紋付きしか見えていないらしい。







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退院まもないはずの土方さんがやたら元気になってしまいました笑
とにかく副長の紋付き姿はたまらんものです(*´Д`*)
ここまで読んでくださりありがとうございます!
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