企画部屋

□強情さんの弱味
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人間に弱味を見せると殺されてしまう。例え瀕死だろうと、最後の最後まで堂々と歩く。そんな危険な生活をしている。
ただしそれは地球のどこかにいる獣たちの話だ。

「今日って非番だったよなお前」
「あぁ、たったいま潰れた。残念だったな」

残念がっているのはそっちだって同じだろう、と銀時は苦笑する。久々に銀時の顔を見る土方の頬は赤いくせに。

弱味を見せないという点では、この男ほど獣に似ている人間はいない。機嫌のよさそうな顔をしているのにもう何日もろくに寝ていない、涼しい顔をしているのに着流しを脱がせると身体じゅうに包帯が巻いてある、なんてことは日常茶飯事だ。
しかし、目の前でむすっとしている土方は、銀時の目にはたかが猫くらいの可愛らしいものに見えるのだ。噛みつかれるとなると獣となんら変わらず痛いのだろうけれど。
噛まれない程度には手懐けているはずである。

「すみません旦那、きのう片付けた仕事の後処理が大変なことになってまして…」
「非番の副長も駆り出さないといけねぇくらい?」
「うだうだ言ってねぇで山崎は仕事にもどれ。万事屋は出てけ」

非番のはずだった土方を迎えに屯所まで来たのだが、そっけない態度で副長室から追い出されてしまった。
すこし、違和感を覚える。

「なあジミー」

一緒に追い出された山崎に聞いてみる。

「調子悪ィんじゃね、アレ」
「え…?」
「気づかねぇ?」

この副長バカが気づかないとは。銀時は少し優越感にひたる。土方に関しては誰よりも観察力があるんだぞと自慢してみたくもなるものだ。
土方の様子が変だった。いつもなら非番が潰れた時、いくら忙しくても詫びの一言は寄越していたはずだ。それが今日は、銀時の目を避けるようにわざとらしく不機嫌に振る舞って、追い出した。頬が赤かったのも、悲しいが、銀時のせいではなくきっと。
これは、知られたくない弱味を抱えているようだ。それも副長お得意の。

山崎が気づかないらしいので、銀時は振り返って先ほど勢いよく閉められた襖に向かって声をかける。

「土方ァ、調子悪ィんならここ開けろ。じゃねぇとお前の大好きなゴリラにチクるぞ、てめぇのトシは体調管理もできねぇヤローですって」

旦那ぁぁ、と山崎が顔を青くしているが銀時は続ける。

「もしかしたら欲しくもねぇ非番がいっぱい手に入るかもなァ、でもその休んでる間に何か起こったら大変だな、非番のオメーはなかなか出動できずに屯所でお留守ば」

ガラガラ――
ゆっくりと襖が開いた。
土方の顔が覗いてすぐに額同士をくっつける。いやいやと首を振るが大した力はなく。

「んー、九度近くあるんじゃねぇか」
「ええっ!副長ぉ俺に隠し事はなしにしましょうよぉ…」
「とにかく何か冷やすモンもってきてくれっか、こっちは俺が大人しくさせとく」

廊下を走っていく山崎を見届けて、銀時は、さてと、と土方をのぞきこんだ。今にも逃げ出してしまいそうな彼の脇の下に手を入れ、暴れだす前に抱き上げた。
やはり身体は熱い。もともと体温の高い銀時と違って土方は低体温である。さぞかし辛いだろうと副長室に一歩踏み出しつつ土方の様子をうかがうが、先ほどとはうってかわってくったりと力を失っている。観念したようだ。

「弱ってんのに、なんで意地を張っちまうのかねぇ副長さんは」

だんまりな土方を一旦降ろし、押入れから布団を引っ張り出す。

「…どした?」

視線を感じて振り返ると、土方が居心地悪そうにもぞもぞとしながら、何か言いたそうに銀時を見ていた。
口を開いて、声を出そうと息を吸ったとき、ちょうど襖が開いて山崎が氷の入った水を持ってやってきた。
土方は何も言わずにまた黙った。

「副長、局長には話通してきましたから、今日はゆっくり休んでくださいね」

じゃあ旦那、後はよろしくお願いします。
そう言って、山崎は出ていった。さすが山崎、銀時ひとりに任せるところがよくわかっている。

副長のくせに情けないだとか、さっきまでつっけんどんな態度をとっていた相手に介抱されるのが後ろめたいのだろう、すっかり大人しくなった土方を布団に寝かせて、その熱い額に濡らしたタオルをかけてやる。
冷たさに肩を揺らしたのが可愛くて、銀時は笑った。

「…で?何か言おうとしてただろ」
「…こんなとこで油売ってねぇで帰ったら」
「まだ意地張るかこの強情さんめ」

どんなに牙をむこうが、この弱っている土方は銀時の前では腹を見せている猫と同じようなもので。やはりいとおしい恋人なのである。

いつものとおり万事屋にたいした仕事は入っておらず、時間だけはもて余していた。いくらでも土方の隣にいられる。
机の上にあった土方の携帯に手を伸ばし、万事屋の固定電話の番号を押す。

「…あーもしもし?今日お前ら晩飯お妙んとこで食ってこい…いーや、ちょいと土方くんの調子が悪くてね。つきっきりで看病ってわけだ…はいはい、言っとくよ」

土方が上体を起こそうと動くが、銀時がその肩を手で押さえて制す。
いいからお前は寝てなさい、と瞳の上に手をおいてやると、睫毛が震えるのがわかった。

「新八からお大事にーだってよ」
「…っかやろ」
「はいはい銀さんはバカヤローですよ」
「帰れよ」
「お前は帰ってほしいのか?」

鼻が触れあうほどに顔を近づけて言ってやれば、目をそらすこともできずに土方は黙った。

「一緒に寝てさしあげましょーか土方くん」

おどけて言ってみる。どうせ拒否されるだろう、この猫はなかなか素直にならないから。
めったに体調をくずさないから心細くなっているであろうこの意地っ張り、仕方ない、自分が下手に回ってその隣で寝てやろう――
そこまで考えたとき、首に重みを感じた。

「…土方?」

土方が銀時の首に腕を回して、下から見上げていた。困ったようにじっと見つめてくる土方、めずらしく今日は素直だ。一度弱味を見せてもう諦めに入ったのか、このタイミングで甘えてくるとは、余程こたえているらしい。

「…さむいから」
「わかった、寒いんだな」

寝転んで腕を伸ばせば、頭を乗せてくる。タオルが落ちるのも構わずに、思わず抱き寄せた。
土方が言いたかったのは、近くにいてほしいということだったのかもしれない。

土方の身体は温かくて、銀時は暖をとるかのようにぎゅうぎゅうと抱き締めた。こんなことで治るとは思えないが、自分にうつしてでもいいから早く治ってほしかった。
ただでさえ仕事に全力で、身体に無理をさせている土方だ、これ以上苦しむ必要はない。

「俺はずっとここで抱いといてやるからさ、寝てていいよ」
「…ばかやろが」

ふっと今日初めての笑顔を見せて、土方は力なく銀時の額をぺしりと叩いた。
獣に甘噛みされたような気分になって、銀時は嬉しそうに笑った。







そら様、リクエストありがとうございます!おそくなってごめんなさい(ToT)
副長さんを看病する坂田さん、いかがでしょうか…?このまま明日までずっとごろごろと看病かつ充電をする予定のようです坂田さん笑
元気のでるメッセージもありがとうございます、小躍りして喜んでます(*´`*)
またいつでもいらしてくださいませ!

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