企画部屋

□そんな家族のひとコマ
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新八がよく知るその男は、見たこともないような優しい顔をして、ソファの横にしゃがんで身をかがめる。そのふわりとした時間が過ぎて、しばらくの間ソファにくっついていた頭が持ち上がった。
新八を捉えた彼は、一瞬にして、もういつものだらしのない万事屋の主にもどっている。玄関と居間の間でぼんやりと突っ立っていた新八は、咳払いをしてやっと動き出した。

「ん?…悪ィ起こしちまったか、まだ寝てていいよ」

台所にいく途中で、聞いたこともないような優しい声を銀時が出した。わかっていながらもソファの方を見ると、案の定、彼の恋人がいた。しかし、今日はいつものあのキリッとした人ではなくて、ソファに寝転がってうとうととしている、土方だった。

新八が万事屋で見る土方は、いつも無理やり銀時につれてこられて、わいわいとする三人に母親役のようなことをしているのがほとんどだった。
彼が今日のように着流しを着ている非番の日だって、新八は神楽と一緒にお妙のところに行くことが多いし、銀時が土方の自慢を一人で勝手にしているのを聞いたことは何度もあるが直接土方と恋人同士らしきことをしているのはあまり見たことがなかった。

「…あぁ帰って来たけど、…起きる?はーいおはようさん」

スーパーで買ったものを棚やら冷蔵庫やらに入れたあとは、このカップルを前にやることがなく居心地が悪かったので、新八はとりあえず茶をいれて机へ運んだ。
銀時が座る隣で土方が伸びをしていた。まだ完全に覚醒していないらしく、あくびをしながら銀時の肩に頭を乗せている。初めて見る光景に、さっと自分の頬に熱が集まったのを感じた。

「神楽ちゃん今定春の散歩行ってますけど、アレなら姉上のところ行きましょうか」
「いやいいよ、土方が鍋の材料買ってきてくれたから。今日は皆で食べるんだってよ」

そういえば冷蔵庫の中がいつもより豪華だった気がする。

「…ふあ、おかえり」

土方が目を擦りながら新八に言った。

「あ、ただいまです…」
「いいなァ、結婚して俺が仕事から帰ってきたらさ、俺にも言ってくれる?」
「だれがてめぇみてぇなプータローに」

悪態をつきながら、土方が笑った。土方のこんなやわらい笑みを見たのは初めてだった。

「はいはい銀さんはプータローですよ」

当たり前のように、銀時は土方のまぶたに唇を落とした。うっとうしそうにあげられた土方の手の甲が銀時の額に当たる。それさえも嬉しそうに、銀時は目を細めた。土方の手が触れる感覚を楽しんでいるようだった。

「明日休みなんだろ、ならお前も一日ぐうたら生活だな」
「やだな、天パがうつる」
「俺の天パお気に入りのくせに」

だれが。ハゲちまえこんなの。
いだだだ、こらこら、俺はお前と違って痛いの好きじゃねぇから。
だれがだ。斬るぞこら。
あ、そういやお前、前は俺といっしょにいるときでも刀が隣にねぇと嫌がってたのに、最近なんともなくなってきたんだな。
あ、俺の刀は。
心配しなくてもすぐそこ、ほら俺の木刀の隣。

新八は見とれていた。たわいのないその会話が、会話をする二人が、浴びているのは万事屋の安い蛍光灯の明かりなのに、あまりにも綺麗だったから。

あの銀時がこんな表情をしているのを見たことがあっただろうか。いつか誕生日ケーキをホールで目の前にしたときよりも、全然違う、それとは比べ物にならないくらいの幸せそうな顔。

――あぁ、銀さんが土方さんと出会ってよかったな。
二人の邪魔をするわけにはいかないので、新八はそこらにあった雑誌を手にとって静かに向かいのソファに座った。

「土方ァ、腹へった」
「はあ?まだだめだ、皆そろってから」
「なんか作ってよ、卵焼きがいいなんて言わねぇからさ」
「ガキかテメェは」

立ち上がって伸びをした土方が台所へ向かう。その後ろ姿を目を細めていとおしそうに見つめる銀時を、新八は読んでいた雑誌を少し下げて見た。
誰かを好きになるだけで、人はここまで変わるのだろうか。

「…銀さん」
「あ?なんだ」
「あの、」
「おう」

新八は、いつものやる気のない目にもどった彼に言う。

「――土方さん見つけて、よかったですね」

銀時は一瞬だけ目を大きくさせて、ふっと笑った。

「あぁ、よかったよ。助かったって言った方がいいかもしんねー」
「助かる…?」
「なーんかさ、お前らとはまた違った感情?つーか愛情?家族愛じゃなくて恋愛的な?初めてだったからさーってか何いっちゃってんの俺、うへへ」
「ノロケですか」
「だって俺もう大好きなんだもーん」

かーったまらーん!
銀時がソファの背もたれからでろーんと上半身を反らせて悶えている。それに苦笑して、新八は茶をすすった。
やはり、土方の存在は大きいようだ。自分と神楽では補えないその欠けた部分が、土方によって満たされていっているらしいことに新八は安心した。実際、銀時は昔より生き生きとしている気がする。

「役不足ですみませんね」
「それがなァお前らはなんか土方の役に立ってるらしくてよ、アイツ会うの結構楽しみにしてたりすんの。妬けるわー」
「そうなんですか」
「鍋したい鍋したいうるせぇんだよ、あのわちゃわちゃした晩御飯がお気にいりなんだってさ。だからとりあえずバカでうるさいフリしとけよな、子供らしく」

アイツの精神安定剤が見つかったんだから、と銀時が嬉しそうに微笑んだ。
いずれにせよ、二人はしっかりと生きていっているみたいだ。そこへ新八達も巻きこまれていきながら。決していやなことではないけれど。

「ただいまヨー!あーっトシちゃん来てるアルか!」
「こらこら神楽!土方に触るのは手ぇ洗ってから!つーか触っていいのは俺だけ!」
「なに訳のわかんねぇこと言ってんだ」
「おおおトシちゃんの玉子焼きネ!一口で寿命が五年伸びるアル!」

銀時の前だけでなく、新八の前にも、神楽のぶんも玉子焼きは用意されていた。顔を上げて土方を見ると、恥ずかしそうに目をそらした。
万事屋全員がそろっても、やはり土方は銀時のものらしく、腕を引っ張られて大人しく銀時の隣に座った。きっと、銀時の寿命もぐんぐんと伸びているのだろう。

「うーんウマイけどあれだな、甘いの作ってくれなかったんだ」
「糖尿ヤローにそんなもの食わせられっか。あ、ちなみにお前らのはちゃんと砂糖入りだから」
「さっすがトシちゃんネ、わかってるう!」
「なんだと!差別だぞ!これは差別だ土方!」
「はいはい、そのかわりに大根おろししといたから。醤油のかけすぎに注意してお召し上がりクダサイ」
「さっすが土方わかってるう!」

前のめりになって玉子焼きに夢中の銀時。その大きな背中に、土方が目を閉じて頭をあずけたのを新八は視界のはしっこでとらえた。
幸せがきらきらと輝いているような、二人だった。





るな様、リクエストありがとうございます!大変お待たせしてすみません…
新八視点の夫婦銀土、素敵なシチュですよね、大好きです。リクエストに沿えることができていたらいいなと思っております、いかがでしょうか…?
旦那さんは奥さんに、奥さんは子供たちに、それぞれ心の助けをもらっているなんていう坂田さんファミリーが個人的に気に入っております。(勝手な妄想失礼いたしましたっ)
こんな感じに仕上がりました、受け取っていただけると嬉しいです。またいつでもお暇なときにいらしてくださいませ。
ありがとうございました!

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