SSS

□The line's busy.
1ページ/1ページ

見回りの途中らしい土方は、携帯電話を耳にあてて誰かと話をしていた。真剣なその顔からして、きっと部下に指示を出しているのだろう。
眉をよせて、手をゆらゆらと動かして説明している。今、こぶしを作って前へ突きだした。殴っちまえ、とか言っているのだろうか。銀時はゆっくりと近づいた。

土方が銀時に気づいたのか、チラリと視線を寄越したが、すぐに左耳にもどる。それがなんだか気にくわなくて、銀時は彼を引きずって人目につかない路地裏に入った。

「…だからさっきから何回も言ってんだろ、殺されてぇのか」

イライラとした声で土方が電話の向こうの人間に言う。
銀時は後ろから土方をぎゅうっと抱き締めた。頭に頬を寄せても、こめかみに唇で触れても、土方は何の反応もしない。

「あぁ?だーかーら、お前の副長さんはそんなことしてる暇はねぇの。新人の稽古くらい簡単じゃねぇか、いちいち電話してくんなうっとうしい」

嫌がっているがかなり長い間話している。銀時は抱き締める力を強めた。
土方は、腹に回った銀時の腕をあやすようにぽんぽんと軽く叩いただけだった。

「とーおーしーろー」

我慢できなくて、唸るような声を出した。土方の携帯電話から相手の声がわずかに聞こえた。

「…ほら、言ってる間にこうなんだろ。副長ナシで下が回らなくてどうする、情けねぇな。わかったら言うこと聞きやがれ。切るぞ。……なに?…うっせぇな」

ふわり、と。
綺麗に微笑んだ土方を目と鼻の先に見て、銀時は息をのんだ。
…あんな顔、俺以外のヤツにするのか。
自分が嫉妬深い人間だとはよく知っていたけれど、そんな些細なことに不満を覚える自分に苦笑してしまう。

土方が電話を耳から外したときに、相手が何か言っているのが聞こえて、もう一度それを耳に当てようとしたのを、銀時は取り上げた。あ、とも、何すんだ、とも言わずに土方は黙ってそれを目で追っていた。

『副長聞いてます?俺らの副長たまには分けてくれって言っといてくださいよ?こっちも副長いなきゃ大混乱なんすから』

銀時は大きく息を吸った。

「あァ?テメェらのじゃねぇよ、俺のなんだよ!勝手に混乱してろ、人生何事も経験だろうが副長ナシで頑張る練習しとかねぇとこいつに全部回ってくんだろうが!だからテメェはいつまでたっても出世できねぇんだよ!つーか俺の土方にちょっかいかけんじゃねぇ!わかんねぇことあんならすぐに土方に聞かずまずは自分で調べること!ハゲ!バカ!カス!」
「耳元で大声出すな、うるさい」
「ハイ、そういうことなんで切ります。じゃあね」

電話を切った銀時を見て、土方が困ったようにため息をついた。銀時はもう一度彼を抱きなおして、土方をのぞきこんだ。

「なに、俺相手には笑ってくれねぇの、さっきみたいに」
「笑ってたか?…あー、まあ、お前の話してたからじゃねぇの」
「俺?」
「旦那によろしくお伝えくださいだってよ、今のはお前が心配しなくてもそこそこ出世してる隊士だよ、よろしくな」
「ふうん、…なーんか、おもしろくねぇなあ」

結局非があるのは自分の方だけだったので、銀時はふてくされた。
ついで髪の毛をぐいぐいと引っ張られるのを感じる。

「いだだだだ、」

土方が後ろ手に銀時の髪の毛をつかんでいた。何しやがる、と言う前に、土方の口が半開きなのを見つけてしまった。

誘われるがままに、土方の頬に手をすべらせて唇を重ねた。普段はめったにしないくせに、彼の方から舌まで絡めてきて、銀時は夢中になってそれにこたえた。

「…はい、これで機嫌なおせよ」

最後に甘えるように下唇を噛んで軽く引っ張り、土方が口角を上げた。

「しょうがねぇな、まあ銀さん優しいから」
「ありがてーこって」

お前の相手も隊士の相手もしなくちゃなんねぇ、副長ってのは大変だよ、と土方が肩をすくめた。くすぐったそうに笑う顔は、嬉しそうだった。





お話中です。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ