SSS
□あなたの悪い癖
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土方は手を洗う回数が異常に多い。食事の前はもちろん、ことあるごとに、たぶん一時間に一回くらいは必ず手を洗う。潔癖性なのかというとそうでもない。ほこりだらけの万事屋に来ることも嫌がっていない。
ただ手が汚れることに、怖がっているのだ。
「ああ、そりゃあの人の癖でさァ」
沖田に聞いてみたことがある。
「初めて人斬ったときから、ああやってしょっちゅう手ェ洗ってんですよ。確かに、あんときは手ェべったり汚して、真っ赤にしてやしたからねえ」
それから話題にしにくくて、土方本人には聞いていない。
今日もまた、彼は手を洗う。一度水道代のことをもちだしてみたが、それなら俺が払うと言うだけだった。
「ぎん──!」
洗面所から悲鳴のような声が聞こえて驚いた。ゴキブリでも出たか、まさなこんなところにまで刺客は来ないだろうけれど。
「どした?」
「せっけんが、せっけん」
土方は半泣きになって石鹸せっけんと連呼していた。以前土方が置いていった液体石鹸がきれてしまったらしい。
「あーせっけんのストックなんてねえからなあ、今は水洗いで我慢してくれる?」
「…い、いやだ」
乾いた声を出して土方がゆるゆると頭を振る。手洗い欠乏症みたいなものだろうか、彼の手を取ると、ひっと肩を揺らす。そんな犯罪者に触られたみたいな反応、しないでくれよ。
「俺が洗ってやるから」
それから、水だけで土方の両手を丁寧に洗ってやった。ちゃんとタオルで拭いてやると、土方は恐る恐るといった様子でくんくん匂いを嗅いだ。
「大丈夫、綺麗だよ」
手を鼻までもっていくと、土方はその俺の手も嗅いだ。普段は猫みたいだけど、今日は犬に見えた。
「同じだろ?」
土方はゆっくりと俺の腕に触った。彼が石鹸を使わずに俺に触ったのは、これが初めてだった。
俺は紳士を気どって跪き、土方の手の甲にキスをした。