SSS

□やさしいせかい
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土方は橋の欄干にもたれてその光景を見ていた。
天気のいい昼下がり、川原で遊ぶ彼らは、川の水面といっしょにきらきらと光っているように見える。特に、あの男の銀色は。

川の水で洗濯をしているようだった。洗濯機でも壊れたのだろうか。
全員で来ているのに、真面目に取り組んでいるのは少年一人で、少女と大の大人は濡れたタオルで相手を叩きあっていた。
水がはねる。すこし離れた土方のほうまで飛んできそうだった。またぴしゃりという音。白いタオルが飛ぶ。土の上に落ちたそれを見て、少年が叫ぶ。

綺麗な光景だと思った。ずっと見ていたいと、ここからこっそりと見ているだけでいいと。

土方は自分がくわえている煙草が、いつのまにか、もうずいぶん短くなっていることに気がついた。川の水を使う彼らよりは下流側にいたので、その煙草をぽとりと落とした。すぐに煙草は見えなくなった。

「…じかた!」

視線を上げる。

「おーい土方ー!」

男が手を振っていた。土方のもとへ走ってきながら、こっちへ来いという仕草をする。
土方も、小さくだが、思わず手を振っていた。

「こっちおいで。お前にはシーツを頼みてぇんだ、でけぇから、いっしょにやろう」

――あぁ、やさしいな。

土方はうなずいて、橋を飛び越えた。すでに土方の真下に着いていた彼が、嬉しそうにそれを受けとめる。
土方はその綺麗な光景のなかに、足を踏み入れた。

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