SSS

□猫のお散歩
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土方は道の脇にある細いブロックの上を歩いていて、銀時よりも頭ひとつぶん背が高かった。

「それで、まだ仕事は残ってるのか」
「あぁ」

かぶき町で着流し姿の土方に会ったから、非番かと思ったのだけれど、期待は外れて。
私服警官がどうのこうのと彼は言う。いつもの黒いものではなくて、紺色に白い刺繍がひとつ小さくほどこされた着流しだった。どちらにせよ、今日も今日とて綺麗なのだけれど。
デートに誘いたいなあ、と銀時は頭をかく。私服とはいえ、仕事中にかっさらうと土方は怒る。怒らせたくないので、銀時は迷っていた。しかたないから、ただ彼のあとをついていく。

「…よう」

土方の声に顔を上げた。知り合いらしき人はいない。彼の視線の先をたどると、三毛猫が一匹あくびをしていた。
塀の上に腕を伸ばした土方は、顎の下を撫でて、またブロックの上を歩く。ごろごろと喉を鳴らしたミケ。土方も猫みたいだ、と銀時は見比べる。ブロックの上をするすると歩いていく彼はきっと猫からもモテるのだろう。

しばらく歩いてから、土方は急に右へまがった。植木が茂っているが、どんどん進んでいく。銀時も枝をよけながら土方のあとをついていった。
広いところにでると、土方は少し身体を屈めてすばやく動き出した。そのまま小さな扉に手をかける。

「あの、ここどこ?」
「しっ!」

人さし指を唇に当てた彼は扉を開けて、中に入っていく。庭のようなところに出た。洗濯物が干してある。っていうか、ここ人ん家じゃね?銀時の言葉に返事はない。
土方は庭を横切ったあと、塀と塀の間を身体を縦にして進んでいった。

「オイオイ、銀さんそんな細くないから通れないって」
「ならそこで不法侵入者になっとくんだな」
「ええっやっぱ不法侵入なの!?」
「べつに、一回見つかって知り合いになったから大丈夫だ。おじいさんだし」

するりと抜けていく土方のあとを慌てて追った。どこへいく気なのだろう。なんだか、きまぐれな猫の散歩に付き合っているみたいだった。

「なんかの近道?ずいぶんなショートカットだな」
「まわりくどいのは嫌いなんでな」

溝を飛び越えて、土方が振り返る。ふっと笑う顔は、銀時の言いたいことをすでにわかっているようだった。
土方はしゃがみこんで、また茂みに消える。

「まわりくどい…いってぇ!木が刺さった!あーもう頭に葉っぱが絡まってきやがる…なあ、それって、俺のこと言ってる?」
「さあな。けど、なんでお前はここまでついて来てんだ?」
「なんでってそりゃまあ…」

道が開けて、やっと窮屈な姿勢から解放された。そこは、見覚えのある景色が。

「あれ、ここって…」
「なにぼさっと立ってんだ、縁側から入るのには慣れっこだろ?」

土方が笑って、草履を脱ぐ。ここは、屯所、それも副長室の前だった。いつも銀時が塀をよじのぼって、忍び込むところ。

「それとも、わざわざご足労いただいたのに、もうお帰りですか?」

障子を開けて、土方が消えた。銀時は肩をすくめて、ブーツを脱ぐ。
縁側に足をかけようとして、自分に葉っぱや木の枝がたくさんついていることに気づいて、急いではらった。そりゃあんなところを通ってきたんだから、汚れるわな。

「……ぎん」
「わあってる、今いくよ」

振り返ると、どこからやって来たのか、もうわからなくなっていた。

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