SSS

□おかえり
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あの背中をみつけて、土方は走った。傷は痛かったけれど、走った。
必死になって刀を振りまわした。三日三晩寝ずの討ち入りは何かときついものがある。攘夷派がギリギリだったのと同じように、こちらだってギリギリだった。土方もギリギリだった。
だから、ここで彼をみつけたのはありがたい。土方は彼の白い背中に飛びついた。

「うわっ!…て、土方?えっオイ、その傷…!」

振り返った銀時が驚いた声を出す。そう焦るな、俺は元気だ。
土方は楽しくなって、わざとらしく苦しんだ。

「痛い痛い痛い、しぬしぬ」
「大丈夫か!?いま救急車呼んでやるからーー」
「あはははっばかやろう」
「ええ!?」
「だれがしぬかこんなので」

土方は笑う。ああ、楽しい。
銀時は土方の血に慌てていたが、軽い傷だということがわかったらしく、土方のスカーフを外して包帯がわりに巻いたあと、安心したようにため息をついた。

「こら、そういうおふざけはやめろな、本気で焦るから」

銀時は困ったように笑って、土方の頬をなでる。

「…おかえり」
「え?」

土方の言葉の意味がわからなかったらしく、銀時は首をかしげた。

「なんて?」
「おかえり」

ーーおかえり、俺。
おかえり、土方十四郎。おかえり、坂田銀時の恋人。おかえり、土方さん。おかえり、トシ。
土方は大きく息を吸った。やっと、終わった。
たえずピンとはっていた神経が、落ち着いていく。身体からも力が抜ける。

「土方、もう、今日はいいのか?」
「あぁ、終わった」

銀時はうなずいて、土方の手をとった。少しだけ震えていたそれは、すぐにもとにもどった。

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